分岐駅通過特例を適用しない乗車券

呉から名古屋市内への片道乗車券です。出札補充券により発売されました。

経由は矢野・広島・新幹線とあります。
呉から呉線で広島に向かい、新幹線に乗り換えて名古屋に向かう経路です。
呉から名古屋に鉄道で向かう一般的なルートであり、補充券で発売する必要は無いように見えます。


この経路であれば、通常は以下のマルス券の乗車券が発券されます。

運賃はどちらも8510円です。同じ乗車券に見えますが、経由を見ると矢野・新幹線・名古屋とあります。
マルス券と補充券との違いは経由に広島を含むかどうかです。

どちらも新幹線の乗換のために広島を経由するのですが、東日本旅客鉄道株式会社 旅客営業取扱基準規程第151条、同第151条の2において海田市を通過する列車に乗り継ぐためであれば、海田市〜広島間で途中下車をしないという条件で折り返し乗車を運賃不要で認めるという特例があります。
このような折り返し特例は50箇所あります。広島〜海田市間の折り返しに限り、新幹線利用時(広島〜三原以遠)も適用されます。

上記特例を適用したのがマルス発券の乗車券です。運賃計算上の経由としては、以下と同様となります。便宜上【特例適用の乗車券】と呼称します。
呉(呉線)海田市(山陽本線)神戸(東海道本線)名古屋 541.8km、8510円



一方で、東日本旅客鉄道株式会社 旅客営業規則第16条の2において、新幹線と在来線の並行区間は原則同一路線として扱いますが、同第16条の2第2項には、新幹線単独駅を含む区間は別線として扱うと定められています。
同(6)では広島〜三原間には新幹線単独駅である東広島があるため、山陽本線山陽新幹線を別線として扱うと定められています。呉〜広島〜三原〜名古屋間は、経路が重複することなく片道乗車券として発売することも可能です。

この場合の運賃計算上の経路は以下となります。便宜上【経路通りの乗車券】と呼称します。
呉(呉線)海田市(山陽本線)広島(山陽新幹線)新大阪(東海道新幹線)名古屋 554.6km、8510円


【特例適用の乗車券】と、【経路通りの乗車券】の運賃計算上の営業キロの差は12.8kmです。これは広島〜海田市間6.4kmの往復と一致します。
どちらの経路での発売も制度上正当ではあるのですが、通常は運賃が安くなる【特例適用の乗車券】が発売されます。なお、【経路通りの乗車券】はマルスシステムでは発券できません。このため出札補充券で発売されました。
経路自動案内で広島・新幹線経由は候補に現れます。また経路入力で広島経由と入力もできます。ただしどちらの発券方法でも、マルスシステムは自動的に特例を適用させたものに置き換えて発券してしまいます。
マルスシステムが対応していないため、駅によっては【特例適用の乗車券】しか発売できないと回答することもあるようです。



今回は偶然どちらの経由でも同じ運賃となっていますので途中下車しないのであれば差はありません。
ただし、【特例適用の乗車券】は「途中下車をしないこと」が条件となっています。折り返し区間である向洋・天神川・広島での途中下車はできません。広島駅の新幹線乗換改札を除き、自動改札機も通過できません。
これらの駅で途中下車する場合は、海田市からの片道運賃が必要となります。なお広島〜海田市の片道は190円、往復は380円です。

例えば、呉〜岡山間を考えます。
【特例適用の乗車券】174.9km、2940円 経由:矢野・新幹線・岡山
【経路通りの乗車券】187.7km、3260円 経由:矢野・広島・新幹線・岡山

【特例適用の乗車券】を使い広島で下車する場合、合計2940+380=3320円が必要です。
このことから、広島での下車を希望する場合、【経路通りの乗車券】との運賃差が380円以下であれば【経路通りの乗車券】の方が得となります(※)。
※折り返し区間の乗換駅の場合は、東日本旅客鉄道株式会社 旅客営業取扱基準規程第145条に規定される特別下車が適用される可能性もありますが、現在では行なっていないようです。原則どおり、折り返し区間の運賃を収受するのが一般的な扱いのようです。

なぜ別線の山陽新幹線山陽本線(広島〜三原間)にも、このような折り返しの特例が定められているのかというと、これは歴史的な経緯によるものです。元々広島〜三原間は東広島駅は存在せず、広島の次は三原でした。
このため広島〜三原間は別線と扱う特例は存在せず、呉線方面から三原以遠に広島経由で向かう場合は必ず分岐駅通過列車の特例が適用されていました。
東広島駅開業後に制度が変更となり広島〜三原間の山陽新幹線山陽本線は別線扱いされるようになりましたが、呉線内からの旅客は着駅によっては運賃が上る可能性があったため、救済措置として山陽新幹線開業後も引き続き分岐駅通過列車の特例は残りました。
これにより分岐駅通過列車の特例と、新幹線・在来線を同一視しない特例の両方が適用されるJR線で唯一の場所が発生するようになりました。

類似の例としては高崎線上越新幹線八高線の乗継が同様な形態ですが、この区間には「八高線〜倉賀野〜高崎〜本庄早稲田〜熊谷(以遠)」と乗車する際に「八高線〜倉賀野〜熊谷(以遠)」とする特例は設定されていません。


今回広島駅で【経路通りの乗車券】を購入したい旨を伝えると、出札担当者は制度自体はご存知だったようで発券に取り掛かって頂けました。
券面の途中下車印の通り、海田市・向洋・広島で途中下車をしました。

【旅客営業規則】
東海道本線(新幹線)、山陽本線(新幹線)、東北本線(新幹線)、高崎線(新幹線)、上越線(新幹線)、信越本線(新幹線)及び鹿児島本線(新幹線)に対する取扱い)
第16条の2 次の各号の左欄に掲げる線区と当該右欄に掲げる線区とは、同一の線路としての取扱いをする。
(略)
2 前項の規定にかかわらず、次の各号に掲げる区間内の駅(品川、小田原、三島、静岡、名古屋、米原、新大阪、西明石、福山、三原、広島、徳山、福島、仙台、一ノ関、北上、盛岡、熊谷、高崎、越後湯沢、長岡、新潟、博多、久留米、筑後船小屋及び熊本の各駅を除く。)を発駅若しくは着駅又は接続駅とする場合は、線路が異なるものとして旅客の取扱いをする。
(6) 三原・広島間

【旅客営業取扱基準規程】
(接続駅等で一時出場させる場合の取扱方)
第145条 接続駅で駅の設備、接続関係等によつて、直通乗車券を所持している旅客を一時出場させる場合は、途中下車の取扱いに準じて、乗車券に途中下車印を押さなければならない。途中下車を認めない乗車券を所持している旅客を一時出場させる場合もまた同様とする。

(分岐駅通過列車に対する区間外乗車の取扱いの特例)
第151条 次に掲げる区間の左方の駅を通過する急行列車へ同駅から分岐する線区から乗り継ぐ(急行列車から普通列車への乗継ぎを含む。)ため、同区間を乗車する旅客 (定期乗車券を所持する旅客を除く。)に対しては、当該区間内において途中下車をしない限り、別に旅客運賃を収受しないで、当該区間について乗車券面の区間外乗車の取扱いをすることができる。
 海田市・広島間

(海田市・広島間に係る区間外乗車の取扱いの特例)
第151条の2 矢野以遠(坂方面)の各駅と三原以遠(糸崎方面)の各駅相互間を乗車する旅客が、新幹線に乗車(広島・東広島間を除く。)する場合は、規則第16条の2第2項の規定にかかわらず、三原・広島間を同一の線路とみなして、広島・海田市間において、途中下車をしない限り、別に旅客運賃を収受しないで当該区間について乗車券面の区間外乗車の取扱いをすることができる。