博多→折尾の乗車券(新幹線経由)

博多から折尾への片道乗車券です。JR九州の出札補充券で発売されました。


この乗車券、わざわざ補充券で発売する必要はないように見えますが券面を見てみると区間は「博多→折尾」、経由は山陽新幹線の「幹」、運賃は840円とあります。山陽新幹線折尾駅はなく、鹿児島本線経由の博多→折尾間、JR九州48.1kmの運賃は940円で、発売額と合いません。

実際のところ、この乗車券は単独で発売されたものではなく別途所持する乗車券につながる乗車券として発売されたものです。
どのような経緯で発売されるのか、以下で見ていきます。


[広]広島市内・[九]北九州市内の山陽新幹線経由の往復乗車券のかえり券、[九]北九州市内→[広]広島市内です。この乗車券を所持する旅客が博多から乗車したい場合を考えてみます。


往復乗車券はゆき券とかえり券の2葉で1枚の乗車券です。
ゆき券使用後の状態はかえり券が未使用であっても全体としては使用開始後の乗車券であり、かえり券を乗車券類変更で[福]福岡市内→[広]広島市内へは変更できません(※)。区間変更も変更できるのは着駅または経路ですので、発駅を手前に伸ばすこともできません。
従ってこの場合は、不足する区間について乗車券を別途購入する必要があります。
※未使用のかえり券のみを払戻すことは可能です(東日本旅客鉄道株式会社 旅客営業規則(以下、規則)第274条第2項)。

規則第86条第8号の規定から、鹿児島本線で博多方面からの北九州市内入口駅は折尾です。博多から在来線で小倉に向かい、小倉で改札を出ないで山陽新幹線に乗り換える場合は博多→折尾(鹿児島本線経由)、JR九州48.1km 940円の乗車券を購入することで乗車できます。


次に博多から山陽新幹線を利用する場合に必要な乗車券を考えてみます。
規則第16条の2において、山陽新幹線山陽本線鹿児島本線新下関〜博多間は同じ線路として扱う区間に含まれません。
従って鹿児島本線経由の博多→小倉の乗車券で山陽新幹線は乗車できません(逆も同)。同じく博多→折尾(鹿児島本線経由)と[九]北九州市内→[広]広島市内(山陽新幹線経由)の組み合わせでも博多から山陽新幹線を利用できません。


山陽新幹線における北九州市内の入口駅は小倉ですので、単純に考えると山陽新幹線経由の博多→小倉、JR西日本67.2km 1140円の乗車券が必要なように思われます。
実際、小倉で一旦下車する場合は以下のとおり博多→小倉の乗車券が必要です。


しかしながら、北九州市内発の乗車券を持つ旅客が博多からの山陽新幹線乗車を希望する場合、「博多〜折尾間(48.1km)の営業キロに相当する運賃をJR西日本の賃率で計算した乗車券を発売し、所持する乗車券と併用することで山陽新幹線の乗車を認める特例」、言い換えれば山陽新幹線上における鹿児島本線折尾駅と同じ営業キロの場所に仮想的な新幹線折尾駅(北九州市内の駅)が存在するとみなす特例」が存在するようです。
「するようです」という書き方をしたのは、この取扱いは規則や旅客営業取扱基準規程(以下、基準規程)には存在せず、根拠を確認できていないためです。ただし博多駅においてはこの出札補充券の書き方例がみどりの窓口に設備されており、少なくとも博多駅では正規の取扱いとなっているようです。博多駅以外で扱われるかどうかは確認できていません。なお、JR九州博多駅窓口に限らずJR西日本博多駅窓口でも発売可能です。

営業キロ48.1kmに対するJR九州の幹線運賃は940円ですが、JR西日本の幹線運賃は840円です。840円というのは最初に示した出札補充券の発売額と一致します。
マルスシステムは博多→折尾を山陽新幹線経由、運賃840円での発売に対応していませんので出札補充券での発売となります(※)。
JR西日本で発売する場合は金額入力の収受額入力操作により博多→折尾、JR西日本自社完結、運賃840円のマルス券を発売することが可能と思われますが、出札補充券で発売するようです。

つまり特例により発売された「博多(山陽新幹線)折尾」の片道乗車券と、[九]北九州市内→[広]広島市内の乗車券を「北九州市内に含まれる山陽新幹線折尾駅から有効」とみなすことにより、博多から山陽新幹線を利用できる、という理屈となっているのだと思われます。
なお、乗車券類変更が出来る場合はその扱いが優先され、出札補充券での発売は行われないようです。


今回は[九]北九州市内→[広]広島市内、213.5km 3670円と、博多→折尾48.1km 840円の合計4510円が支払った総額です。本来の運賃は[福]福岡市内→[広]広島市内、280.7km 5080円ですので、結果として通し運賃より500円以上も安くなったことになります。
このような差が生じる理由としては北九州市内発となることで折尾・小倉間の運賃が北九州市内に吸収されたこと、[福]福岡市内・[広]広島市内間がちょうど運賃が1段高くなる境界の営業キロ280kmを僅かに超えていること等が上げられます。



上記例は所持する乗車券に繋がる乗車券の発売に関するものですが、北九州市内着の乗車券で乗り越しし、新幹線経由博多で精算した場合においても同様に扱われます。
山陽新幹線経由、[広]広島市内・[九]北九州市内の往復乗車券のゆき券、[広]広島市内→[九]北九州市内です。


この乗車券で博多まで新幹線で乗り越した場合、精算額は小倉→博多(山陽新幹線経由)1140円でも折尾→博多(鹿児島本線経由)940円でもなく、上記出札補充券の発売額と同額の840円です。新幹線折尾→博多(山陽新幹線経由)、JR西日本幹線48.1kmに対する運賃が精算額です。


今回のような乗り越し精算についての扱いは基準規程第275条第1号の例の後段で示されています。
北九州市内又は福岡市内着の乗車券を所持する旅客が、小倉・博多間を新幹線に乗車する区間変更の取扱いを申し出たときは、北九州市内又は福岡市内の出口の駅からの営業キロ又は運賃計算キロによつて普通旅客運賃を計算する」とあります。
北九州市内から新幹線で乗り越す場合は折尾・博多の営業キロJR西日本の賃率で計算する、と直接定めているものではなく、また「北九州市内の出口の駅」は(幹在別扱いの区間ですが)小倉とも折尾とも解釈できます。
小倉・博多間の営業キロで計算する、という趣旨なのかもしれませんが、わざわざ「小倉・博多間を新幹線に乗車する区間変更」と限定しているところから、他の特定都区市内と異なる扱いを定めているように思われます。

仮に基準規程第275条第1号が折尾・博多に対するJR西日本賃率で計算した運賃を精算額とするという趣旨であるとすると、ゆきとかえりで必要となる追加額が異ならないように博多→折尾(山陽新幹線経由)の乗車券発売を定めているのかもしれません。

【旅客営業規則】
(東海道本線(新幹線)、山陽本線(新幹線)、東北本線(新幹線)、高崎線(新幹線)、上越線(新幹線)、信越本線(新幹線)及び鹿児島本線(新幹線)に対する取扱い)
第16条の2 次の各号の左欄に掲げる線区と当該右欄に掲げる線区とは、同一の線路としての取扱いをする。

(1)東海道本線山陽本線中神戸・新下関東海道本線(新幹線)及び山陽本線(新幹線)中新神戸新下関
(2)東北本線東北本線(新幹線)
(3)高崎線上越線及び信越本線高崎線(新幹線)、上越線(新幹線)及び信越本線(新幹線)
(4)鹿児島本線中博多・新八代間及び川内・鹿児島中央鹿児島本線(新幹線)中博多・新八代間及び川内・鹿児島中央
2 略 (特定都区市内にある駅に関連する片道普通旅客運賃の計算方) 第86条 次の各号の図に掲げる東京都区内、横浜市内(川崎駅、尻手駅八丁畷駅及び川崎新町駅並びに鶴見線各駅を含む。)、名古屋市内、京都市内、大阪市内(新加美駅を除く。)、神戸市内(道場駅を除く。)、広島市内(海田市駅及び向洋駅を含む。)、北九州市内、福岡市内(姪浜駅下山門駅今宿駅九大学研都市駅及び周船寺駅を除く。)、仙台市内又は札幌市内(以下これらを「特定都区市内」という。)にある駅と、当該各号に掲げる当該特定都区市内の◎印の駅(以下「中心駅」という。)から片道の営業キロが200キロメートルを超える区間内にある駅との相互間の片道普通旅客運賃は、当該中心駅を起点又は終点とした営業キロ又は運賃計算キロによつて計算する。ただし、特定都区市内にある駅を発駅とする場合で、普通旅客運賃の計算経路が、その特定都区市内の外を経て、再び同じ特定都区市内を通過するとき、又は特定都区市内にある駅を着駅とする場合で、発駅からの普通旅客運賃の計算経路が、その特定都区市内を通過して、その特定都区市内の外を経るときを除く。 (1)〜(7)略 (8)北九州市内 図は略 (以下略) (旅行開始後又は使用開始後の旅客運賃の払いもどし) 第274条 旅客は、普通乗車券を使用して旅行を開始した後、旅行を中止した場合は、その乗車券が、有効期間内であつて、かつ、その乗車しない区間営業キロが、100キロメートルを超えるとき(乗車変更の取扱いをしたため100キロメートルを超える場合を除く。)に限つて、これをその旅行を中止した駅に差し出し、既に支払つた旅客運賃から既に乗車した区間の普通旅客運賃(当該乗車券が往復割引普通乗車券以外の割引乗車券で、旅行を中止しても既に乗車した区間だけでその割引条件を満たすときは、割引普通旅客運賃)を差し引いた残額の払いもどしを請求することができる。この場合、旅客は、手数料として、乗車券1枚につき220円を支払うものとする。 2 往復乗車券又は連続乗車券の未使用券片については、前項の規定にかかわらず、第271条の規定を適用する。 3 旅客は、第1項の規定により残額の払いもどしを請求する場合で、係員の請求があるときは、払いもどしの請求書を提出しなければならない。 【旅客営業取扱基準規程】 (特定都区市内等に関連する乗車券で区間変更をする場合の旅客運賃の計算方) 第275条 特定都区市内又は東京山手線内着若しくは発の乗車券を所持する旅客が、区間変更の取扱いを申し出た場合は、次の各号に定めるところにより旅客運賃を計算するものとする。 (1)規則第249条第1項第1号に規定する区間変更の取扱いをする場合は、変更する着駅の方向の駅に関連するそれぞれの特定都区市内又は東京山手線内の出口となる駅着のものとして取り扱う。 (例)仙台発横浜市内着の乗車券を所持する旅客が、豊橋まで区間変更を申し出たときは、戸塚(横浜市内の出口の駅)・豊橋間(普通旅客運賃は規則第86条の規定により横浜・豊橋間)の普通旅客運賃を収受する。この場合、北九州市内又は福岡市内着の乗車券を所持する旅客が、小倉・博多間を新幹線に乗車する区間変更の取扱いを申し出たときは、北九州市内又は福岡市内の出口の駅からの営業キロ又は運賃計算キロによつて普通旅客運賃を計算するものとする。 (2)規則第249条第1項第2号及び第3号に規定する区間変更の取扱いをする場合は、原乗車券の着駅又は発駅を当該特定都区市内又は東京山手線内の中心駅着又は発のものとして取り扱う。 (例)下関発東海道本線経由東京都区内着の乗車券を所持する旅客が、金山から中央本線経由に変更を申し出たときは、金山・東京間の東海道本線経由と中央本線経由の区間変更として取扱いをする。