旅客営業取扱基準規程第114条

本郷台から稲子への片道乗車券です。JR東海の出札補充券により発売されました。


経路は本郷台(根岸線)横浜(東海道本線)東神奈川(横浜線)八王子(中央本線)甲府(身延線)稲子です。
本郷台は横浜市内に含まれる駅ですが、横浜から稲子への営業キロは195.5kmと200kmを超えていません。従って東日本旅客鉄道株式会社 旅客営業規則(以下、規則)第86条に規定される特定都区市内は適用されず、発着駅間の営業キロ(運賃計算キロ)で運賃が計算されます。
本郷台→稲子の営業キロは214.0km、運賃計算キロは220.4kmです。運賃は4000円で3日間有効となり、券面の発売額と一致しません。

ところで稲子の一つ隣の芝川を着駅とする場合を考えます。
横浜→芝川の営業キロは200.3kmと200kmを超えていますので、本郷台→芝川の乗車券は[浜]横浜市内→芝川となり、横浜市内の中心駅である横浜を起点として運賃が計算されます。
営業キロ200.3km、運賃計算キロ207.2kmに対する運賃は3670円で3日間有効の乗車券となります。


従って本郷台を発駅とする場合、特定都区市内の適用可否により稲子よりも遠くの芝川の方が運賃が安くなるという逆転現象が生じます。
この逆転現象を救済するのが東日本旅客鉄道株式会社 旅客営業取扱基準規程(以下、基準規程。JR東海では旅客営業取扱細則)第114条です。

(特定都区市内等にある駅に関連する普通旅客運賃計算方の特例)
第114条 特定都区市内にある駅と、その駅に関連する特定都区市内の中心駅からの営業キロが200km以下の区間にある駅との相互間についての普通旅客運賃は、その関連する特定都区市内の中心駅から同一の方向及び経路による営業キロが200kmを超える区間にある駅との普通旅客運賃に比較して、これよりも高額となる場合は、その同一の方向及び経路による規則第86条の規定の適用を受ける最近の駅までの普通旅客運賃をもつて、この区間の旅客運賃とすることができる。
2 東京山手線内にある駅と東京駅からの営業キロが100km以下の区間にある駅との相互間についての普通旅客運賃は、前項の規定を準用することができる。


条文は複雑ですが、特定都区市内が適用されないことが原因で特定都区市内が適用される遠くの駅の方が運賃が安くなる場合に安い方の運賃を適用できる、とするものです。


条文を今回の例に当てはめてみます。
・特定都区市内にある駅
本郷台

・その駅(本郷台)に関連する特定都区市内の中心駅
横浜

・その駅(本郷台)に関連する特定都区市内の中心駅(横浜)からの営業キロが200km以下の区間にある駅
稲子

・特定都区市内にある駅(本郷台)と、その駅(本郷台)に関連する特定都区市内の中心駅(横浜)からの営業キロが200km以下の区間にある駅(稲子)との相互間についての普通旅客運賃
本郷台・稲子間=4000円

・その関連する特定都区市内の中心駅(横浜)から同一の方向及び経路による営業キロが200kmを超える区間にある駅
芝川

・その関連する特定都区市内の中心駅(横浜)から同一の方向及び経路による営業キロが200kmを超える区間にある駅(芝川)との普通旅客運賃
横浜(市内)・芝川間=3670円

本郷台・稲子間=4000円>横浜(市内)・芝川間=3670円であるため、基準規程第114条第1項の規定により本郷台・稲子間の運賃を3670円とすることができます。


なお「〜〜この区間の旅客運賃とすることができる。」と条文にあるとおり、基準規程第114条の適用は絶対ではありません。従って規則通りに発着駅間の営業キロ(運賃計算キロ)で運賃計算した乗車券を発売しても正当な発売ということになります。本郷台・稲子間は、3670円・4000円どちらも正当な運賃と言えます。


マルス発券による本郷台から稲子への片道乗車券です。
経由欄は「根岸線東海道横浜線・中央東・身延線」とあります。特定都区市内は適用されません。運賃は発着駅間の営業キロ214.0km(運賃計算キロ220.4km)により計算され、4000円です。基準規程第114条を適用しない、規則通りに運賃計算を行った乗車券です。


着駅を稲子の一つ隣である芝川にすると、「本郷台→芝川」の乗車券は以下のように「[浜]横浜市内→芝川」となります。
経由欄は「横浜線・中央東・身延線」、横浜起点で運賃を計算するため営業キロ200.3km、運賃計算キロ207.2kmに対する運賃3670円となります。


このようなケースは特定都区市内の範囲が広く、特定都区市内の端の駅から中心駅までの営業キロ(運賃計算キロ)で運賃が一段上がるような場合に発生します。仙台市内(奥新川→仙台:33.8km)、広島市内(井原市→広島:37.1km、運賃計算キロ40.8km)、北九州市内(若松→小倉:29.9km、運賃計算キロ31.0km)などで同じようなことが起こりますが、これらの各市内はマルスシステムが基準規程を考慮した運賃計算を行っています。
横浜市内において、理由はわかりませんがマルスシステムは基準規程第114条を適用しない運賃計算を行っています。従ってこの区間を3670円で発売するには出札補充券でしか発売できないことになります(※)。
マルス端末の金額入力・基準額入力または収受額入力操作で、本郷台→稲子を3670円で半ば強制的に発券することもマルスシステム上は可能ですが、この操作はJR線全区間が発売会社の収入となります。今回の区間JR東日本JR東海に跨っており運賃分配が行う必要があるため、基準額・収受額入力操作での発券は行えません。また、区間と運賃だけしか記録が残らず、どのような経路で発売したか追跡できなくなる基準額・収受額操作で乗車券が発売されることは殆ど無いでしょう。

以下にマルスシステムが対応している例を挙げます。

奥新川から西那須野の片道乗車券です。


奥新川は仙台市内に含まれる駅で、仙台→西那須野は営業キロ200.0kmです。
特定都区市内の適用は営業キロが200kmを超える、すなわち200.1km以上であることが条件です。従って奥新川→西那須野の乗車券は仙台市内が適用されず、営業キロ233.8kmに対応する4000円がこの区間に対する本来の運賃となります。

一方で西那須野の一駅隣の野崎について、仙台→野崎は営業キロ205.2kmと200kmを超えていますので、奥新川→野崎の乗車券は特定都区市内が適用され[仙]仙台市内→野崎の205.2kmに対する運賃3670円となります。
奥新川から西那須野(4000円、奥新川→西那須野)より遠くの野崎(3670円、[仙]仙台市内→野崎)の方が安価であるため、奥新川→西那須野間の運賃は[仙]仙台市内→野崎と同額の3670円となります。仙台市内については基準規程第114条が適用された運賃計算を行っています(※)。
マルスシステムは奥新川→西那須野を仙山線東北本線経由で要求すると営業キロ233.8km、運賃計算キロ205.2kmと回答します。運賃計算キロは[仙]仙台市内→野崎間、すなわち仙台→野崎間の営業キロをもって奥新川→西那須野の運賃計算をしています。