特定都区市内の中心駅

横浜から菊川で、新横浜・静岡間を新幹線利用とする片道乗車券をえきねっとの乗車券メニューで申し込むと3670円です。
一方で、指定席券売機の乗車券メニューでは同じ経路が表示されるにもかかわらず3350円と表示されます。


この差は何なのか、発券される乗車券を見てみます。

えきねっとで購入した横浜→菊川の片道乗車券です。
経由欄は「東海・横浜線・新横浜・新幹線・静岡・東海」とあります。経路は横浜(東海道本線)東神奈川(横浜線)新横浜(東海道新幹線)静岡(東海道本線)菊川営業キロ201.3kmで運賃は3670円です。申し込んだ通りの経路で発券されます。


指定席券売機で購入した横浜→菊川の片道乗車券です。
経由欄は「東海道・小田原・新幹線・静岡・東海道」、横浜(東海道本線)小田原(東海道新幹線)静岡(東海道本線)菊川の経路で営業キロ193.4km、3350円です。新横浜から新幹線としたにもかかわらず、指定とは異なった経路で発売されています。有効日数も異なっています。2日なので営業キロ101〜200kmの範囲となります。


横浜・新横浜間〜小田原以遠は東日本旅客鉄道株式会社 旅客営業規則(以下、規則)第157条第1項第19号に規定される選択乗車により、短い横浜(東海道本線)小田原の経路の乗車券で、遠回りの横浜(東海道本線)東神奈川(横浜線)新横浜(東海道新幹線)小田原と乗車できます。
えきねっとでは旅客の指定した通りの経路で発売していますが、指定席券売機では新幹線経由の経路を指定しても効力である選択乗車をあらかじめ適用させ、運賃が安くなりうる経路(短い経路)の方を優先しているようです。運賃が異なるのは、同じ経路を指定しても、実際に発売される乗車券の経路が異なっていることが原因ということになります。

途中下車出来る乗車券の場合、一般的に選択乗車中も途中下車を禁じてはいないのですが、この区間に限っては選択乗車中の途中下車を認めていません。従って東神奈川・大口・菊名・新横浜で途中下車したい場合は乗車経路通りの乗車券が必要となるのですが、その場合は指定席券売機では発売できない事になります。
ただし近年は途中下車したいという需要自体があまりないのかもしれませんし、長距離となると横浜市内が適用され、市内での途中下車が認められなくなることから、あまり問題にならないのかもしれません。



ところでえきねっとで購入した横浜(横浜市内の中心駅)→菊川の乗車券は、発着駅間の営業キロが201.3kmと200kmを超えており、規則第86条に規定される特定都区市内の条件を満たしているにもかかわらず、[浜]横浜市内→菊川で発売されていません。
横浜市内→横浜市内の外→再度横浜市内を通過」という経路でもなく、特定都区市内の適用を除外する条件も満たしていません。横浜→菊川(新横浜・新幹線)は全区間幹線であり、運賃3670円は幹線201〜220km、有効日数3日は営業キロ201〜400kmといずれも営業キロ200kmを超える場合の運賃・効力であるにもかかわらず、です。



なぜこのようなことが起きるのかというと、どうやら
1.特定都区市内の中心駅と新幹線の駅が同一でない特定都区市内発着で、
2.新幹線の駅を特定都区市内の出入口とする場合は、
「新幹線駅を特定都区市内の中心駅とみなすという特例」(以下、特例)が存在するようです。

「ようです」としたのは、この特例は旅客営業規則・旅客営業取扱基準規程のどちらにも規定がないようで、制度上の根拠がよくわからないためです。ただしマルスシステムの運賃計算はこの特例を適用しているようです。

これは特定都区市内適用の判定と運賃計算が関係する場合のみの特例のようで、例えば横浜→品川のような近距離では在来線経由290円(特定運賃)、新横浜・新幹線経由500円とどちらも横浜起点で運賃計算し、経路・営業キロが異なるため当然運賃も異なります。



この特例により、えきねっとで購入した横浜→菊川(新横浜・新幹線経由)の乗車券は、新幹線の駅である新横浜を横浜市内の出口としているため新横浜を横浜市内の中心駅とみなし、かつ新横浜(東海道新幹線)静岡(東海道本線)菊川は193.4kmと200kmを超えていないため横浜市内が適用されないことになるようです。従って発着駅である横浜・菊川間の営業キロ201.3kmにより運賃計算を行い、運賃は3670円となっているようです。


このような特例がある理由は、例えば神戸市内で新神戸発着の場合、JR線のみで神戸市内の外を経ずに直接神戸に到達する経路がありません。このため新神戸を便宜上神戸市内の中心駅と見なす必要があるためと考えられます。
新大阪〜神戸・新神戸間(36.9km)、西明石〜神戸・新神戸間(22.8km)に営業キロの差はないため、中心駅が新神戸の場合と神戸の場合で運賃が変わることはありません。

この他、横浜市内の場合は横浜〜小田原間と新横浜〜小田原間はどちらも営業キロは同じ55.1kmですが、横浜を起点として小田原以遠へ新幹線を利用する場合、本来は横浜〜東神奈川〜新横浜〜小田原(以遠)となり、在来線経由より7.9km(横浜・新横浜間)営業キロが長くなってしまいます。
新幹線を利用することで在来線経由と運賃が変わってしまうのを防ぐため、新幹線利用時は新幹線駅を特定都区市内中心駅とみなすようにしたのでしょうか。
大阪市内・新大阪はこの特例が適用されることはないようです。京都方面は新幹線独立駅がありませんし、新神戸方面は新大阪経由としても、姫路以遠は規則第88条、姫路を経由しない場合も規則第157条第1項第29号(大阪・西明石間の選択乗車)が優先されるためでしょうか?



ただし、この特例によりかえって運賃が高くなってしまうケースが発生することもあります。

本郷台から高久への片道乗車券です。


経路は本郷台(根岸線)横浜(東海道本線)東神奈川(横浜線)新横浜(東海道新幹線)東京(東北本線)高久営業キロ222.5km、運賃4000円です。横浜市内は適用されていません。

本郷台は横浜市内に含まれる駅で、横浜〜高久間(新横浜・新幹線経由)は204.0km、本来なら横浜市内が適用され、本郷台→高久は[浜]横浜市内→高久、3670円となるはずです。
ところが特例により新横浜を横浜市内の中心駅とみなすと新横浜〜高久間は196.1kmと200kmを超えていないため、横浜市内は適用されません。結果、本郷台(単駅)〜高久間の営業キロ222.5kmに対する運賃4000円が発売額となってしまいます。
規則通り発売すれば3670円なのですが、特例により特定都区市内が適用されずかえって高額となってしまっています(※)。
規則を緩和する方向に定められるのが特例ではあるのですが……。
※高久の一つ隣の黒田原であれば新横浜からの営業キロは200.3kmとなり横浜市内が適用されるので[浜]横浜市内→黒田原、運賃3670円となります。特定都区市内適用可否により遠いほうが安くなる場合は東日本旅客鉄道株式会社 旅客営業取扱基準規程第114条により本郷台→高久を3670円で発売することも可能ではあります。

なお、横浜(東神奈川)〜品川間で、東海道本線東海道新幹線の選択乗車を定めた規定はありません。
本郷台(根岸線)横浜(東海道本線)東京(東北本線)高久(横浜・高久間196.1kmのため、横浜市内は不適用)とすると営業キロ214.6km、3670円となり新横浜・新幹線経由より安くなりますが、この乗車券で新横浜・品川間の東海道新幹線は利用できる根拠はありません。短くなる方の選択乗車を発売時にあらかじめ適用させる……といったことも、この区間に関しては不可能です。


繰り返しますが、今回の記事は「特例」とした部分の規定上の根拠が確認できていません。
詳細をご存知の方が居られましたらご教示頂きたくよろしくお願いします。

(特定都区市内にある駅に関連する片道普通旅客運賃の計算方)
第86条 次の各号の図に掲げる東京都区内、横浜市内(川崎駅、尻手駅八丁畷駅及び川崎新町駅並びに鶴見線各駅を含む。)、名古屋市内、京都市内、大阪市内(新加美駅を除く。)、神戸市内(道場駅を除く。)、広島市内(海田市駅及び向洋駅を含む。)、北九州市内、福岡市内(姪浜駅下山門駅今宿駅九大学研都市駅及び周船寺駅を除く。)、仙台市内又は札幌市内(以下これらを「特定都区市内」という。)にある駅と、当該各号に掲げる当該特定都区市内の◎印の駅(以下「中心駅」という。)から片道の営業キロが200キロメートルを超える区間内にある駅との相互間の片道普通旅客運賃は、当該中心駅を起点又は終点とした営業キロ又は運賃計算キロによつて計算する。
ただし、特定都区市内にある駅を発駅とする場合で、普通旅客運賃の計算経路が、その特定都区市内の外を経て、再び同じ特定都区市内を通過するとき、又は特定都区市内にある駅を着駅とする場合で、発駅からの普通旅客運賃の計算経路が、その特定都区市内を通過して、その特定都区市内の外を経るときを除く。
(以下略)

(新大阪駅又は大阪駅発又は着となる片道普通旅客運賃の計算方)
第88条 新大阪駅又は大阪駅と姫路駅以遠(英賀保京口又は播磨高岡方面)の各駅との相互間の片道普通旅客運賃は、姫路駅を経由する場合に限り、大阪駅を起点又は終点とした営業キロ又は運賃計算キロによつて計算する。

(選択乗車)
第157条 旅客は、次の各号に掲げる各駅相互間(略図中の〓線区間以遠の駅と━線区間以遠の駅若しくは◎印駅相互間)を、普通乗車券又は普通回数乗車券(いずれも併用となるものを含む。)によつて旅行する場合は、その所持する乗車券の券面に表示された経路にかかわらず、各号の末尾に記載した同一かつこ内の区間又は経路のいずれか一方を選択して乗車することができる。ただし、2枚以上の普通乗車券又は普通回数乗車券を併用して使用する場合は、他方の経路の乗車中においては途中下車をすることができない。
(1)〜(18)略
(19)小田原以遠(早川方面)の各駅と横浜・新横浜間の各駅との相互間(東海道本線経由、新幹線経由)。この場合、乗車券の券面に表示された経路以外の横浜・新横浜間内では、途中下車の取扱いをしない。
(20)〜(28)略
(29)大阪以遠(天満又は福島方面)の各駅と、西明石以遠(大久保方面)の各駅との相互間(東海道本線及び山陽本線経由、新幹線経由)。この場合、乗車券の券面に表示された経路以外の区間内では途中下車の取扱いをしない。
(以下略)