近い方が高いICカード運賃

首都圏の多くの鉄道会社では、2014年4月1日の消費税増税に合わせた運賃改定時に、ICカードを対象とした1円単位運賃が導入されています。
都営地下鉄(以下、都営線)新宿駅に掲出されている東京メトロ線(以下、メトロ線)連絡運賃表です。都営線とメトロ線の連絡乗車券には、70円の乗継割引があります。


都営線新宿から、メトロ線(東西線)の妙典・原木中山西船橋の3駅に注目してみます。


これらの駅はいずれも390円で連絡乗車券の運賃は同額ですが、妙典・原木中山には赤色下線が引かれています。運賃表右下のIC運賃対応表によると下線なし390円区間(西船橋)は382円、下線あり390円区間(妙典・原木中山、以下原木中山のみ記載)は383円です。紙の乗車券であれば同額なのですが、ICカードで乗車する場合は西船橋より新宿に近い原木中山の方が(1円ですが)高額という直感的でない現象が発生しています。
なお、これは運賃表のミスではなく正当な運賃(東京都交通局東京メトロとも確認済)であり、実際にICカードを利用した場合も運賃表どおりの運賃が適用されます。



立川駅発行のSuica残額ご利用明細です。印字したのはPASMOですがSuicaと印字されます。


当初1500円あった残高が都営線新宿→メトロ線原木中山下車時に383円引かれ残額1117円、都営線新宿→メトロ線西船橋下車時に382円引かれ残額735円となっており、運賃表どおりに引かれていることがわかります。


都営線とメトロ線を乗り継ぐ場合の運賃は、実際の接続駅にかかわらず2社局間最安となる経路・接続駅で算出した運賃に70円の割引を適用させており、近いほうが高いということは起こりえないはずですが、このように実際に発生しています。なぜこのように「近いほうが高い」現象が発生するのでしょうか。
結論から言うと、「実際の接続駅にかかわらず2社局間最安となる経路・接続駅で算出した運賃」はその通りなのですが、ごく一部に実際はそうなっていないケースが存在するのが原因でした(後述)。

これを検証する前に、メトロ線と都営線の運賃体系を見てみます。

メトロ線の普通運賃は以下の5通りです。
(1)1〜6km 170円(IC165円)
(2)7〜11km 200円(IC195円)
(3)12〜19km 240円(IC237円)
(4)20〜27km 280円(IC278円)
(5)28〜40km 310円(IC308円)

都営線の普通運賃は以下の6通りです。
(1)1〜4km 180円(IC174円)
(2)5〜9km 220円(IC216円)
(3)10〜15km 270円(IC267円)
(4)16〜21km 320円(IC319円)
(5)22〜27km 370円(IC370円)
(6)28〜46km 430円(IC422円)

これらの組み合わせに、乗継割引70円を適用させると以下のようになります。

ME/TO180220270320370430
170280320370420470530
200310350400450500560
240350390440490540600
280390430480530580640
310420460510560610670
ME:東京メトロ線、TO:都営線、単位:円。以下同。

ただし、上記すべての運賃区分を発売しているわけではありません。540円以上の区間は必ずそれより安い経路が存在するため、その運賃で発売されることはありません。
従って実際には280円から530円までとなります。同様の理由で470円・500円・510円区間、および都営線430円とメトロ線170円による530円区間運賃というものも存在しません。
発売される運賃パターンは、以下の18の組み合わせによる15通りです。

ME/TO180220270320370430
170280320370420470530
200310350400450500560
240350390440490540600
280390430480530580640
310420460510560610670
同額となる区間は350円・390円・420円の3つです。

では、ICカード運賃のパターンを考えてみます。存在しないパターンは連絡乗車券と同じですので以下のようになります。

ME/TO174216267319370422
165269311362414465517
195299341392444495547
237341383434486537589
278382424475527578630
308412454505557608660
乗車券では同額であった区間を見てみると、350円区間はどちらの組み合わせでも341円ですが、390円区間は382円と383円、420円区間は412円と414円の2通りの組み合わせが存在します。


今回の都営線新宿〜メトロ線原木中山西船橋は390円区間ですので、以下390円(IC382円・383円)区間に限定します。
IC382円は都営線174円(1-4km)、メトロ線278円(20-27km)、383円は都営線216円(5-9km)、メトロ線237円(12-19km)が該当します。

上の方で書いた"「実際の接続駅にかかわらず2社局間最安となる経路・接続駅で算出した運賃」はその通りなのですが、ごく一部に実際はそうなっていないケースが存在する"についてですが、ICカード利用時の都営線・メトロ線乗継運賃の計算は、ICカードの運賃が最安となる経路での計算を行っていません。

ではどのような計算を行っているかというと、以下の手順によります。
(1)発着駅間の紙の乗車券の運賃組み合わせについて、最も安くなる経路・接続駅を探す。
(2)(1)で見つかった経路が複数パターンある場合は、発着駅間の通算の営業キロが最短となる経路を、運賃計算経路とする。
(3)その経路に相当するIC運賃を合算し、割引70円を適用する。


具体的な計算方法は、以下のとおりです。

都営線新宿→メトロ線西船橋
この区間の経路については、
(1)新宿(新宿線)市ヶ谷(南北線有楽町線)飯田橋(東西線)西船橋
都営線3.7km 180円、メトロ線23.9km 280円、計27.6km 390円(割引含む)
または
(2)新宿(新宿線)新宿三丁目(丸ノ内線)赤坂見附・永田町(有楽町線)有楽町・日比谷(日比谷線)銀座(銀座線)日本橋(東西線)西船橋
都営線0.8km 180円、メトロ線26.9km 280円、計27.7km 390円(割引含む)
または
(3)新宿(大江戸線)青山一丁目(半蔵門線)永田町(有楽町線)有楽町・日比谷(日比谷線)銀座(銀座線)日本橋(東西線)西船橋
都営線3.3km 180円、メトロ線24.3km 280円、計28.5km 390円(割引含む)
などが考えられます。

いずれも都営線180円とメトロ線280円の組み合わせです。都営線220円、メトロ線240円の組み合わせ区間営業キロの関係上存在しません。
運賃計算には通算の営業キロが最短となる(1)の市ヶ谷接続が選ばれ、この区間に対応するIC運賃である都営線174円とメトロ線278円、割引70円を適用し382円がICカードの運賃となります。


都営線新宿→メトロ線原木中山
この区間は、いずれも前述の経路と同じ
(4)新宿(新宿線)市ヶ谷(南北線有楽町線)飯田橋(東西線)原木中山
都営線3.7km 180円、メトロ線22.0km 280円、計25.7km 390円(割引含む)
または
(5)新宿(新宿線)新宿三丁目(丸ノ内線)赤坂見附・永田町(有楽町線)有楽町・日比谷(日比谷線)銀座(銀座線)日本橋(東西線)原木中山
都営線0.8km 180円、メトロ線25.0km 280円、計25.8km 390円(割引含む)
または
(6)新宿(大江戸線)青山一丁目(半蔵門線)永田町(有楽町線)有楽町・日比谷(日比谷線)銀座(銀座線)日本橋(東西線)原木中山
都営線3.3km 180円、メトロ線22.4km 280円、計26.0km 390円(割引含む)
などが考えられます。

一方で、以下の経路も考えられます。
(7)新宿(新宿線)神保町(三田線)大手町(東西線)原木中山
都営線7.0km 220円、メトロ線18.2km 240円、計25.2km 390円(割引含む)

運賃はどれも同額ですが、発着駅間の営業キロが最短となるのは大手町接続です。
従って(7)大手町接続の経路が運賃計算経路として選ばれ、これに該当するIC運賃都営線216円、メトロ線237円、割引70円を適用し383円となります。
(4)〜(6)はどれもIC運賃で計算すると382円と(7)よりも安価なのですが、発着駅間の営業キロが(7)よりも長いため運賃計算には用いられません。
なお、(7)の経路で西船橋まで向かうとメトロ線が20.1kmとなり運賃が上がってしまいます。都営線新宿→メトロ線西船橋が大手町接続の経路で運賃計算されることはありません。


このような結果に至った原因は、
(1)紙の乗車券とICカード乗車券で異なる運賃体系を適用したこと。
 →2社局の異なる運賃を合算した場合、紙の乗車券では同額であってもICカードにすると異なる区間が発生してしまった。
(2)発着駅間を通じて営業キロが最短となる経路を運賃計算経路として適用したこと。
 →運賃は都営線>メトロ線ですので、メトロ線を長く(全体も長く)した方が安くなる区間があったとしてもその経路で運賃計算されない。
が原因であると考えられます。


遠いほうが安いというのは特定都区市内・東京山手線内など運賃制度が複雑なJRのみの問題と思っていましたが、地下鉄にも実は存在していたことになります。
わざわざ「390円(IC382円、IC383円)」のような対照表付きの運賃表を作成したことから、このような事態となることは都営地下鉄東京メトロとも把握してはいるが、修正は行わないということなのでしょう。同様のケースは、都営線巣鴨→メトロ線原木中山(IC383円)・メトロ線西船橋(IC382円)などがあります。

なお、新宿→原木中山西船橋は全区間メトロ線利用の場合、原木中山が280円(IC278円)、西船橋は310円(IC308円)です。初めからメトロ線新宿駅まで歩いたほうが安かったということですね。


乗換案内サイトでの検索結果を見てみます。
概ね対応できていますが、一部新宿→原木中山をIC382円としてしまっているところがありました。

Yahoo!乗換案内:新宿→原木中山 383円新宿→西船橋 382円
ジョルダン新宿→原木中山 383円新宿→西船橋 382円
駅探:新宿→原木中山 383円新宿→西船橋 382円
NAVITIME新宿→原木中山 382円新宿→西船橋 382円
えきから時刻表(IC運賃非対応):新宿→原木中山、新宿→西船橋 390円
駅すぱぁと:新宿→原木中山 383円新宿→西船橋 382円
乗換案内NEXT:新宿→原木中山 383円新宿→西船橋 382円
ハイバーダイヤ:新宿→原木中山 382円新宿→西船橋 382円