旅客営業規則第70条区間内での迂回乗車

西八王子から間々田への片道乗車券です。
経由は「中央東・東京・新幹線・大宮・東北」とあります。運賃は1890円、2日間有効で途中下車可の乗車券です。

経由印字どおりに運賃を計算すると、経路は西八王子(中央本線)新宿(山手線)代々木(中央本線)神田(東京折返・東北新幹線)大宮(東北本線)間々田で、営業キロ127.8km 運賃2210円となり、発売額と一致しません。
これは東日本旅客鉄道株式会社 旅客営業規則(以下、規則)第70条の規定により、同区間(以下、70条区間)を通過する場合は最短経路で運賃・料金を計算すると定められているためです。

これにより西八王子〜間々田間の運賃計算上の経路は西八王子(中央本線)新宿(山手線)池袋(赤羽線)赤羽(東北本線)間々田と同じとなり、営業キロ109.9km 1890円となります。


運賃は70条区間の最短経路で計算しており、運賃計算経路は新幹線を含みません。一方で効力は「乗車券(幹)」「経由:新幹線」「2日間有効」と新幹線経由が適用されています。規則70条は運賃・料金計算の方法を定めたものであり、効力については言及していません。このため、運賃計算の経路と効力の経路が異なるということが起こりえます。
マルスシステムにおいては、このように70条区間を最短経路で運賃計算しつつ、効力は実乗車経路通り新幹線経由とした発券に対応しています。ただし有効日数は70条区間最短経路、すなわち運賃計算に用いた経路の営業キロで計算されます。
これは東北新幹線に限らず、東海道新幹線の場合も同様です。例えば立川〜小田原間、東京から東海道新幹線利用で発券した場合、経由を「中央東・東京・新幹線」としつつ新宿・山手線・品川経由で運賃計算を行い、実乗車経路121.4km 2210円に対し運賃計算経路114.9km 1890円で発売され、2日間有効・途中下車可とできます。

ただし、このように70条区間の運賃計算経路上に新幹線がなくても効力の面で新幹線経由としてマルス発券できるのは、新幹線利用区間が大宮以遠・新横浜以遠の場合に限られるようです。



八王子から国府津への片道乗車券です。JR東海の出札補充券による発売です。

経由は「中央東・東京・幹・品川・東海道」とあります。
効力の面では八王子(中央本線)新宿(山手線)代々木(中央本線)神田(東北本線)東京(東海道新幹線)品川(東海道本線)国府津となり、125.1km 2210円ですが、運賃計算上は八王子(中央本線)新宿(山手線)品川(東海道本線)国府津、118.6km 1890円で発売されます。

西八王子〜間々田と似たようなケースですが、今回は新幹線利用区間が東京〜品川で70条区間内で完結しており、70条区間の最短経路上に新幹線が存在しません。このようなケースでは、マルス端末に経路を入力しても「要求区間誤り」とエラーを返し、発券できません。
マルスシステムの仕様上、「補正禁止」を指定することで無理矢理発券させることは可能ですが、実乗車経路通りの2210円で発売されるため誤発売となってしまいます。
このためマルスシステムでは正当な乗車券を発券できず、出札補充券での発売となります。
なお西八王子〜間々田についても、新幹線利用区間が東京〜上野の場合は同様にマルスシステムでは発券できません。

出札担当者は、運賃確認のため70条区間最短経路+補正禁止とした乗車券、経由印字と有効日数確認のため実乗車経路+補正禁止とした乗車券の2枚を一旦発券し、出札補充券に転記されていました。


運賃計算の規定である規則70条は、以下に示す通り「〜最も短い営業キロによつて計算する」と断言されており、必ず適用される性質のものです。旅客の申し出や出札担当者の判断で不適用にはできません(※1)。
※1 東日本旅客鉄道株式会社 旅客営業取扱基準規程第109条に規定される場合を除く。

一方で乗車券の効力を定めた規則154条156条は新幹線を利用することで大都市近郊区間内相互発着の適用が外れ、有効日数・途中下車可否が変わってきます。
新幹線利用区間が品川〜東京〜上野間で完結しており、70条区間の最短経路上に新幹線が存在しない場合の発券にマルスシステムが対応していないのは、おそらくこの区間だけで新幹線を利用する旅客を想定しないためと思われます。




なお、JR東日本では2014年4月1日より大都市近郊区間の拡大が予定されており、中央本線韮崎〜塩尻間、篠ノ井線塩尻〜松本間までが東京近郊区間に含まれるようになります。
これにより例えばいわき〜松本間445.8kmが4日間有効・途中下車可から、大都市近郊区間内相互発着となり有効1日・下車前途無効となるのですが、今回の発券を応用すると、効力をいわき(常磐線)日暮里(東北本線)上野(東北新幹線・東京折返)神田(中央本線)代々木(山手線)新宿(中央本線)塩尻(篠ノ井線)松本としつつ、運賃計算は70条区間最短のいわき(常磐線)日暮里(東北本線)田端(山手線)新宿(中央本線)塩尻(篠ノ井線)松本 445.8km 7140円、消費税8%適用時の運賃7340円で発券することも可能と思われます(※2)。

区間は、いわき側を1駅伸ばして草野〜松本としたり、松本側を1駅伸ばしていわき〜田沢、いわき〜北松本とすることで大都市近郊区間の特例を外しつつ、いわき〜松本間と同額で4日間有効・途中下車可となる乗車券を発売することが可能です。
また、本来は誤発売ですがいわき(常磐線)日暮里(東北本線)上野(東北新幹線・東京折返)神田(中央本線)代々木(山手線)新宿(中央本線)塩尻(篠ノ井線)松本の経路を補正禁止で発券すると448.0km 7140円、8%消費税適用時7340円(※2)で、70条区間を最短とした場合と運賃が変わらず、4日間有効、途中下車可で発券されてしまいます。
※2 2014年4月1日から有効の旅客営業規則を確認できていないため、現時点での推測です。また、運賃はJR東日本国土交通省認可申請したもので確定したものではありません。なお、いわき→松本の大都市近郊区間内相互での最安経路はいわき(常磐線)新松戸(武蔵野線)西国分寺(中央本線)塩尻(篠ノ井線)松本、444.9kmです。

【旅客営業規則】
第70条 第67条の規定にかかわらず、旅客が次に掲げる図の太線区間を通過する場合の普通旅客運賃・料金は太線区間内の最も短い営業キロによつて計算する。この場合、太線内は、経路の指定を行わない。
(以下略)


(有効期間)
第154条 乗車券の有効期間は、別に定める場合の外、次の各号による。
(1)普通乗車券
 イ 片道乗車券
営業キロが100キロメートルまでのときは1日、100キロメートルを超え200キロメートルまでのときは2日とし、200キロメートルを超えるものは、200キロメートルまでを増すごとに、200キロメートルに対する有効期間に1日を加えたものとする。ただし、第156条第2号に規定する大都市近郊区間内各駅相互発着の乗車券の有効期間は、1日とする。
(以下略)


(途中下車)
第156条 旅客は、旅行開始後、その所持する乗車券によつて、その券面に表示された発着区間内の着駅(旅客運賃が同額のため2駅以上を共通の着駅とした乗車券については、最終着駅)以外の駅に下車して出場した後、再び列車に乗り継いで旅行することができる。ただし、次の各号に定める駅を除く。
(1)略
(2)次にかかげる区間(以下「大都市近郊区間」という。)内の駅相互発着の普通乗車券を使用する場合は、その区間内の駅
 イ 東京付近にあつては、東海道本線中東京・熱海間(第16条の2の規定にかかわらず、東海道本線(新幹線)東京・熱海間を除く。)及び品川・新川崎・鶴見間、山手線、赤羽線南武線鶴見線武蔵野線横浜線根岸線横須賀線、相模線、伊東線中央本線中東京・韮崎間、青梅線五日市線八高線東北本線中東京・黒磯間(第16条の2の規定にかかわらず、東北本線(新幹線)東京・那須塩原間を除く。)、日暮里・尾久・赤羽間及び赤羽・武蔵浦和・大宮間、常磐線中日暮里・いわき間、川越線高崎線(第16条の2の規定にかかわらず、高崎線(新幹線)大宮・高崎間を除く。)、上越線中高崎・水上間、両毛線水戸線日光線烏山線信越本線中高崎・横川間、総武本線京葉線外房線内房線成田線鹿島線久留里線及び東金線(以下これらの区間を「東京近郊区間」という。)
(以下略)


【旅客営業取扱基準規程】
(特定区間を再び経由する場合の普通旅客運賃の計算方)
第109条 規則第69条及び同第70条に規定する区間の一方の経路を通過した後、再び同区間内の他の経路を乗車する場合の普通旅客運賃は、旅客の実際に乗車する経路の営業キロ又は運賃計算キロによつて計算することができる。
(以下略)