ICカード乗車券での山手線一周

東京駅発行のSuica残額ご利用明細です。

東京駅にSuicaで入場し、山手線で一周した後に東京駅での下車を申し出ました。ICカード乗車券は乗車駅での下車に自動改札機が対応していないため、窓口での精算が必要となります。
残額500円が234円になっており、引き去り額は266円です。

前回は山手線を一周する紙の乗車券でしたが、ICカード乗車券で一周した場合についても考えてみます。
※今回も引き続き、単に「山手線」とした場合は「運転系統としての山手線」を指すものとします。また、Suica乗車券とSuica定期乗車券では根拠となる規則条文が異なる場合がありますが、ここではSuica乗車券を利用した場合とします。

まず、東日本旅客鉄道株式会社 ICカード乗車券取扱規則(以下、IC規則)第29条ではICカード乗車券であっても乗車経路通りの運賃計算を基本としつつ、実際に引き去る運賃はIC規則第38条で取扱区間内のうち最安の経路で計算した運賃としています。

東京から東京への経路のうち最安となるのは東京(総武本線)錦糸町(総武本線[御茶ノ水支線])秋葉原(東北本線)東京営業キロ10.2km、IC運賃では216円です。
ではこの運賃が山手線一周IC運賃かというとそうはならず、IC規則第54条第1項の規定により乗車駅で下車する場合は実乗車経路(乗車を伴わない場合は同条第2項の規定により入場料金相当額)、すなわち山手線一周の経路に対するIC運賃を支払う必要があります。

山手線を乗車経路通りに一周した場合のIC運賃は475円(計算方法は後述)ですが、実際にはこの運賃が引き去られることはなく、東京駅で申し出た際は上記の通り266円が引き去り額でした。
これは東京から隣駅まで(IC運賃133円)の往復に等しく、大都市近郊区間の選択乗車の特例により東京〜有楽町の往復乗車券で東京から山手線を一周できるのと同じ解釈としているようです。
現実問題として個別の旅客の正確な乗車経路を把握することは困難であり(だからこそ紙の乗車券は大都市近郊区間の選択乗車、ICカード乗車券は最安経路で計算)、計算が簡単であり旅客にも不利とならない隣駅往復の運賃相当額を収受しているのでしょう。

ところで、東京→錦糸町秋葉原→東京で一周乗車をした場合、IC運賃は前述の通り216円で隣駅往復の266円より安価となります。簡単のため隣駅往復、とすると本来の運賃より高額となってしまいます。錦糸町秋葉原経由で一周したと申告した場合はどのような運賃が引き去られるのでしょうか。
一周のIC運賃を改札窓口ですぐに計算できるとは思えず、何となくですが266円を引き去りとしてしまいそうな気がします。

なお山手線一周の紙の乗車券での運賃は480円、ICカードでの運賃は475円ですが、東京附近の特定運賃にも480円という区間(例:新宿・八王子間)があります。この区間IC運賃は474円で、紙の乗車券の運賃が同じでも、計算方法が異なるためかIC運賃は同額でないケースもあります。



山手線一周IC運賃について】
山手線一周、つまり東京(東海道本線)品川(山手線)田端(東北本線)東京ICカード運賃を計算してみます。

上記経路の営業キロは34.5kmです。東日本旅客鉄道株式会社 旅客営業規則(以下、規則)第8条により1kmに切り上げ、35kmです。東京山手線内相互発着ですのでIC規則第33条第2号の規定に従い、規則第77条第2項第1号により31〜35kmの範囲は中央の33kmで運賃を計算します。
IC規則第33条第1項第1号により東京山手線内相互のキロ単価は規則第78条第1項第1号のイから13.25円/kmで、33kmをかけると437.25円です。営業キロ100km以下ですので10円未満を切り上げて440円、これにIC規則第33条第1項第2号の規定による消費税8%を加え475.2円、は数整理(下記参照)により1円未満を切り捨てて475円ICカード乗車券での山手線一周運賃となります。



【は数整理について】
「は数整理」はその名の通り端数に関する扱いを定めたものですが、旅客営業規則とICカード取扱規則では同じ表記の「は数整理」で異なる扱いを規定しています。違いは10円単位か1円単位かだけなのですが、どちらの規定による「は数整理」かで処理が異なります。
なお、旅客営業規則においては運賃の消費税相当額は10円単位で「四捨五入」としています。すなわち端数の処理の方法としては「旅客営業規則のは数整理」「ICカード取扱規則のは数整理」「四捨五入」の3種類が存在することになります。

旅客営業規則のは数整理:旅客営業規則第74条第1項に規定。小児運賃・料金に関する規定だが、これに限らず使っている。「10円未満のは数を切り捨てて10円単位とした額」
ICカード取扱規則のは数整理:IC規則第30条に規定。これも小児運賃に対する規定だが、同じく小児以外にも使う。「1円未満のは数を切捨てて1円単位とした額」
四捨五入:旅客営業規則第77条第1項第2号に規定。「10円未満のは数を円位において四捨五入して10円単位とした額」
なお、四捨五入については「四捨五入して10円単位とした額(以下この方法を「四捨五入」という。)」、つまり「四捨五入したものを四捨五入という」という再帰的な定義をしていますが、これは「四捨五入(一般用語)して10円単位とした額(以下この方法を「四捨五入(JR用語)」という。)」としているのだと思います。四捨五入の処理の初出は規則第14条の2第2項ですが、こちらの四捨五入も文意から一般用語としての四捨五入を指していると考えられます。



東日本旅客鉄道株式会社 ICカード乗車券取扱規則】

(IC運賃の計算経路等)
第29条 IC運賃の計算上の経路等については、旅客規則第68条第1項第1号、同条第2項、同条第4項第1号から第2号、第69条第1項第2号から第5号、第70条から第71条、第86条第1号から第2号、同条第10号及び第87条の規定を準用します。

(小児のIC運賃)
第30条 小児のIC運賃は、大人のIC運賃を折半し、1円未満のは数を切捨てて1円単位とした額(以下この方法を「は数整理」といいます。)とします。

(東京山手線内相互発着の大人のIC運賃)
第33条 旅客規則第78条第1項第1号に規定する東京山手線内相互発着の大人のIC運賃は、第31条第1項の規定にかかわらず、次の各号により算出した額を合計した額とします。
(1)旅客規則第78条第1項第1号イに規定する賃率を用いて同第77条第1項第1号の規定を適用して算出した額
(2)前号により算出した額に100分の8を乗じは数整理した額
2.前項の規定によるほか、東京山手線内相互発着の大人のIC運賃を算出する場合に適用する営業キロについては、旅客規則第77条第2項を準用します。

(Suica乗車券を使用する場合のIC運賃の減算)
第38条 Suica乗車券を第22条第1項の規定により使用する場合、出場駅において、入場駅から同一の取扱区間内を経由して最も低廉となる運賃計算経路で算出したIC運賃をSF残額から減算します。この場合、小児用のSuica乗車券にあっては小児のIC運賃を、その他のSuica乗車券にあっては大人のIC運賃を減算します。

(入場駅と同一駅で出場する場合の取扱方)
第54条 Suica乗車券又はSuica定期乗車券を使用して入場した後、任意の駅まで乗車し、出場することなく再び入場駅まで乗車して出場する場合は、第38条の規定にかかわらず、実際乗車区間(券面表示区間内での乗車を除きます。)に対するIC運賃を支払い、当該Suica乗車券又はSuica定期乗車券の出場処理を受けなければなりません。
2.Suica乗車券を使用して入場した後、乗車することなく旅行を中止した場合は、旅客規則第300条の規定に基づき当該入場駅の入場料金相当額を支払い、当該Suica乗車券に対する出場処理を受けなければなりません。
(以下略)

東日本旅客鉄道株式会社 旅客営業規則】

(営業キロ擬制キロ又は運賃計算キロの端数計算方)
第8条 営業キロ又は第14条の2に規定する擬制キロ若しくは運賃計算キロを用いて運賃・料金を計算する場合の1キロメートル未満の端数は、1キロメートルに切り上げる。

(運賃計算キロ)
第14条の2 略
2 前項の賃率換算キロ及び擬制キロは、別に定めるものとし、地方交通線の乗車区間に対する営業キロに、第77条の5に規定する地方交通線の第1地帯賃率を第77条に規定する幹線の第1地帯賃率で除した値を乗じて得たもの(小数点以下1位未満の端数があるときはこれを四捨五入する。)とする。ただし、北海道旅客鉄道会社線内にあつては、地方交通線の乗車区間に対する営業キロに、第77条の6に規定する地方交通線の第1地帯賃率を第77条の2に規定する幹線の第1地帯賃率で除した値を乗じて得たものとする。

(小児の旅客運賃・料金)
第74条 小児の片道普通旅客運賃、定期旅客運賃、急行料金又は座席指定料金は、次条に規定する場合を除いて、大人の片道普通旅客運賃、定期旅客運賃、急行料金又は座席指定料金をそれぞれ折半し、10円未満のは数を切り捨てて10円単位とした額(以下この方法を「は数整理」という。)とする。

(幹線内相互発着の大人片道普通旅客運賃)
第77条 幹線内相互発着となる場合の大人片道普通旅客運賃は、次の各号により計算した額を合計した額とする。
ただし、北海道旅客鉄道会社線四国旅客鉄道会社線又は九州旅客鉄道会社線内発又は着若しくは通過となる場合を除く。
 (1)発着区間営業キロを次の営業キロに従つて区分し、これに各その営業キロに対する賃率を乗じた額を合計した額。この場合、発着区間営業キロが100キロメートル以下のときは、10円未満のは数を10円単位に切り上げた額とし、100キロメートルを超えるときは、50円未満のは数を切り捨てて、又は50円以上のは数を切り上げてそれぞれ100円単位とした額とする。
(中略)
 (2)前号の規定により計算した額に100分の8を乗じ10円未満のは数を円位において四捨五入して10円単位とした額(以下この方法を「四捨五入」という。)
2 前項の規定によるほか、幹線内相互発着の大人片道普通旅客運賃は、次の各号に定める営業キロのものを適用する。
 (1)11キロメートルから50キロメートルまで
   11キロメートルから5キロメートルごとに区分し、11キロメートルから15キロメートルまでは13キロメートルとし、16キロメートル以上は、これに1区分を増すごとに5キロメートルを加えた営業キロとする。
(以下略)

(電車特定区間内等の大人片道普通旅客運賃)
第78条 次の各号に掲げる区間内相互発着の場合の大人片道普通旅客運賃は、第77条の規定にかかわらず、当該各号の定めによつて計算した額とする。
(1)第86条第1号に掲げる図中の太線区間(以下「東京山手線内」という。)及び同条第5号に掲げる図中の太線区間(以下「大阪環状線内」という。)の駅相互発着の場合
 イ 東京山手線内相互発着の場合
   次に定める賃率によつて第77条第1項第1号及び同条第2項の規定を適用して計算した額と、その額に100分の8を乗じ10円未満のは数を円位において切り上げた額とを合算した額
   300キロメートル以下の営業キロ(第1地帯)/1キロメートルにつき 13円25銭
(以下略)