西小倉〜小倉間、博多〜吉塚間の区間外乗車

南小倉から柚須への片道乗車券です。経由欄は「日豊・鹿児島線篠栗線」とあります。


この乗車券の経路は南小倉(日豊本線)西小倉(鹿児島本線)吉塚(篠栗線)柚須営業キロは69.8km、運賃は1290円です。
西小倉・小倉間、吉塚・博多間は東日本旅客鉄道株式会社 旅客営業取扱基準規程(以下、基準規程)第151条第1項に規定される分岐駅通過列車の特例区間であり、西小倉を通過する列車を利用する場合は西小倉・小倉間を、吉塚を通過する列車を利用する場合は吉塚・博多間の区間外の折り返し乗車が認められています。
例えば西小倉、日豊線普通列車、小倉、ソニック号※1、博多、福北ゆたか線普通列車、柚須と乗車する場合、この乗車券で小倉と博多で折り返しとなる乗車が可能です。
※1 吉塚に停車するソニック号は除く。


南小倉から柚須への片道乗車券です。
上記乗車券と同じように見えますが、経由欄は「日豊・新幹線・篠栗線」とあります。


上記と同じような経路で、小倉・博多間を山陽新幹線で利用するケースに発売される乗車券です。在来線利用とほぼ同じ形態に見えますが、根拠となる規定は大きく異なっています。
新下関〜博多間の山陽本線鹿児島本線山陽新幹線東日本旅客鉄道株式会社 旅客営業規則(以下、規則)第16条の2第1項の同一扱いする線路に含まれておらず、規定上は別の線路として扱われます。ただし、規則第16条の3により普通乗車券の発売、運賃計算の営業キロ等の計算、区間変更の運賃・料金の通算・打切方については同一の路線として扱われます。
この複雑な扱いは、元々は同じ路線でしたが1996年の運賃改定により本州会社と三島会社で運賃が異なることとなったのが原因です。運賃改定により新幹線と在来線で運賃が異なるのに同一路線扱いとする規定のままでは都合が悪かったのか、この改定以降別路線と扱うようになりました。
ただし運賃計算以外について、例えば往復乗車券の発売条件、運賃計算の営業キロを打ち切る条件などの判定は引き続き山陽本線鹿児島本線山陽新幹線を同じ路線としています。

従って本来の扱いは規則第68条第4項第3号イの規定により小倉及び博多で運賃計算を打ち切り、南小倉〜小倉、小倉〜博多、博多〜柚須の片道3枚(または連続+片道等)で発売する、という通常の折り返し乗車と同じ発売となります。
在来線の場合は前述のとおり分岐駅通過の特例が設定されていましたが、基準規程第151条第1項では「西小倉・小倉間又は吉塚・博多間について、新幹線に乗車する場合は別に定める」と注記があり、別の扱いが規定されています。

この乗車券はその別の規定が根拠となっています。基準規程第43条の2で以下のように定められています。

(西小倉・小倉間及び、吉塚・博多間の区間外乗車に係わる片道乗車券等の発売方の特例)
第43条の2 前条及び規則第26条の規定にかかわらず、南小倉以遠(城野方面)の各駅と博多南若しくは博多以遠(竹下方面)の各駅相互間、柚須以遠(原町方面)の各駅と小倉以遠(門司又は新下関方面)の各駅相互間又は南小倉以遠(城野方面)の各駅と柚須以遠(原町方面)の各駅相互間を乗車する旅客が、新幹線(小倉・博多間)に乗車する場合は、西小倉・小倉間又は吉塚・博多間において途中下車しない限り、当該区間営業キロを除いた片道乗車券又は往復乗車券を発売する。

規定は複雑ですが、整理すると(1)発着駅が以下の(a)〜(c)のパターンに当てはまり、(2)小倉・博多間で新幹線を利用し、(3)西小倉・小倉間、吉塚・博多間で途中下車しない場合、の(1)〜(3)の条件をすべて満たす場合、(3)の区間営業キロを除いた乗車券を発売するというものです。
(a)南小倉以遠(城野方面)の各駅と博多南若しくは博多以遠(竹下方面)の各駅相互間
(b)柚須以遠(原町方面)の各駅と小倉以遠(門司又は新下関方面)の各駅相互間
(c)南小倉以遠(城野方面)の各駅と柚須以遠(原町方面)
今回の発着駅パターンは(c)ということになります。

規則上同一線路でなく、山陽新幹線西小倉駅吉塚駅がないため「区間外乗車を認める」といった文言が使えず回りくどい表現になっていますが、つまりは小倉〜博多間の山陽新幹線鹿児島本線と同じく分岐駅通過の特例(と同じ趣旨の特例)を認める、というものです。

この規定を受け、運賃計算も基準規程第116条で以下のように規定されています。

(西小倉・小倉間及び吉塚・博多間の区間外乗車に係わる大人片道普通旅客運賃計算方の特例)
第116条 第43条の2に規定する場合の大人片道普通旅客運賃は、西小倉・小倉間又は吉塚・博多間の営業キロを差し引いて計算するものとする。

山陽新幹線西小倉駅吉塚駅はありませんが、実際には西小倉・小倉と吉塚・博多の往復分営業キロが運賃計算から除外されています。

それでは、今回の南小倉→柚須(日豊・新幹線・篠栗線経由)の乗車券を例に運賃計算してみます。なお営業キロは西小倉・小倉間が0.8km、吉塚・博多間は1.8kmです。
南小倉→小倉:日豊線鹿児島線JR九州幹線3.5km。西小倉・小倉間0.8kmを引き2.7km。
小倉→博多:山陽新幹線JR西日本幹線67.2km。西小倉・小倉間、吉塚・博多間の合計2.6kmを引き64.6km。
博多→柚須:鹿児島線篠栗線JR九州幹線4.3km。吉塚・博多間1.8kmを引き2.5km。

合計営業キロは2.7+64.6+2.5=69.8km、うちJR九州区間は5.2kmです。
幹線69.8kmに対する運賃1140円、JR九州区間5.2kmに対する加算運賃20円を合算した1160円が発売額となります。

基準規程上では、南小倉→柚須(鹿児島本線経由)はそれ自体が単独で成立する折り返し区間を含まず発売された乗車券の「効力」に関して区間外乗車の特例を定めたものですが、南小倉→柚須(山陽新幹線経由)はそもそも旅客規則上片道で発売及び運賃計算ができません。その区間に対し「発売及び運賃計算」に関する特例を定めたものです。
なお、規則どおり小倉・博多で運賃計算を打ち切った乗車券を発売することも可能です。



ところで基準規程第43条の2では発売する乗車券を「片道乗車券又は往復乗車券」に限定しており、なぜか連続乗車券を除外しています。
どういう意図で連続乗車券を外しているのかよくわからなかったのですが、ネットでは「……連続乗車券を発売する」と規定すると、小倉や博多で打ち切った連続乗車券を発売してしまうからではないか、との見解があります。確かにそのとおりだと思います。

安部山公園から下曽根と、下曽根から柚須への連続乗車券です。指定席券売機で購入しました。


連続2が小倉・博多間で山陽新幹線を利用し、南小倉以遠と柚須以遠を発着とする乗車券です。
基準規程を厳密に解釈すると、新幹線と関係ない区間での折り返し乗車であっても連続乗車券は発売できず規定に反した発売ではあります。チェックが抜けているだけかもしれませんが、この区間の発売を拒否する必要はなく許容されていると見るべきかもしれません。

【旅客営業規則】
(東海道本線(新幹線)、山陽本線(新幹線)、東北本線(新幹線)、高崎線(新幹線)、上越線(新幹線)、信越本線(新幹線)及び鹿児島本線(新幹線)に対する取扱い)
第16条の2 次の各号の左欄に掲げる線区と当該右欄に掲げる線区とは、同一の線路としての取扱いをする。

(1)東海道本線山陽本線中神戸・新下関東海道本線(新幹線)及び山陽本線(新幹線)中新神戸新下関
(2)東北本線東北本線(新幹線)
(3)高崎線上越線及び信越本線高崎線(新幹線)、上越線(新幹線)及び信越本線(新幹線)
(4)鹿児島本線中博多・新八代間及び川内・鹿児島中央鹿児島本線(新幹線)中博多・新八代間及び川内・鹿児島中央
2 略 (新幹線と新幹線以外の線区の取扱いの特例) 第16条の3 次の左欄に掲げる線区と当該右欄に掲げる線区に関し、第26条第1号ただし書、第2号ただし書及び第3号にそれぞれ規定する普通乗車券の発売、第68条第4項に規定する旅客運賃計算上の営業キロ等の計算方並びに第242条第2項に規定する区間変更の取扱いにおける旅客運賃・料金の通算方又は打切方については、前条第1項の規定を準用する。
山陽本線新下関・門司間及び鹿児島本線中門司・博多間山陽本線(新幹線)中新下関・小倉間及び鹿児島本線(新幹線)中小倉・博多間
(旅客運賃・料金計算上の営業キロ等の計算方) 第68条  (中略) 4 前各項の規定により、旅客運賃・料金を計算する場合で次の各号の1に該当するときは、当該各号に定めるところによつて計算する。  (1)計算経路が環状線1周となる場合は、環状線1周となる駅の前後の区間営業キロ擬制キロ又は運賃計算キロを打ち切って計算する。  (2)計算経路の一部若しくは全部が復乗となる場合は、折返しとなる駅の前後の区間営業キロ擬制キロ又は運賃計算キロを打ち切つて計算する。  (3)新下関・博多間の新幹線の一部又は全部と同区間山陽本線及び鹿児島本線の一部又は全部とを相互に直接乗り継ぐ場合は、次により計算する。   ア 山陽本線新下関・門司間及び鹿児島本線中門司・小倉間の一部又は全部(同区間と同区間以外の区間をまたがる場合を含む。)と山陽本線(新幹線)中新下関・小倉間(同区間と同区間以外の区間をまたがる場合を含む。)とを新下関又は小倉で相互に直接乗り継ぐ場合は、新下関又は小倉で営業キロ又は運賃計算キロを打ち切つて計算する。   イ 鹿児島本線中小倉・博多間の一部又は全部(同区間と同区間以外の区間をまたがる場合を含む。)と鹿児島本線(新幹線)中小倉・博多間(同区間と同区間以外の区間をまたがる場合を含む。)とを小倉又は博多で相互に直接乗り継ぐ場合、小倉又は博多で営業キロ又は運賃計算キロを打ち切つて計算する。 (注)東海道本線中金山・名古屋間と中央本線中金山・名古屋間とは同一の線路である。 【旅客営業取扱基準規程】 (西小倉・小倉間及び、吉塚・博多間の区間外乗車に係わる片道乗車券等の発売方の特例) 第43条の2 前条及び規則第26条の規定にかかわらず、南小倉以遠(城野方面)の各駅と博多南若しくは博多以遠(竹下方面)の各駅相互間、柚須以遠(原町方面)の各駅と小倉以遠(門司又は新下関方面)の各駅相互間又は南小倉以遠(城野方面)の各駅と柚須以遠(原町方面)の各駅相互間を乗車する旅客が、新幹線(小倉・博多間)に乗車する場合は、西小倉・小倉間又は吉塚・博多間において途中下車しない限り、当該区間営業キロを除いた片道乗車券又は往復乗車券を発売する。 (西小倉・小倉間及び吉塚・博多間の区間外乗車に係わる大人片道普通旅客運賃計算方の特例) 第116条 第43条の2に規定する場合の大人片道普通旅客運賃は、西小倉・小倉間又は吉塚・博多間の営業キロを差し引いて計算するものとする。 (分岐駅通過列車に対する区間外乗車の取扱いの特例) 第151条 次に掲げる区間の左方の駅を通過する急行列車へ同駅から分岐する線区から乗り継ぐ(急行列車から普通列車への乗継ぎを含む。)ため、同区間を乗車する旅客 (定期乗車券を所持する旅客を除く。)に対しては、当該区間内において途中下車をしない限り、別に旅客運賃を収受しないで、当該区間について乗車券面の区間外乗車の取扱いをすることができる。 (中略) 西小倉・小倉間 吉塚・博多間 (中略) (注)西小倉・小倉間又は吉塚・博多間について、新幹線に乗車する場合は別に定める。