使用できない乗車券

東日本旅客鉄道株式会社 旅客営業規則(以下、規則)第147条第1項では乗車券類の使用条件を「券面表示事項に従つて」と定めています。
券面表示事項は規則第183条第1項により「有効区間」「有効期間」などとされています。

津軽今別から中小国への片道乗車券です。


津軽今別駅JR北海道 海峡線の駅で、1日2往復4本の特急列車のみが停車していました。8名以上の団体で利用する場合は、事前に連絡することで特急列車を臨時停車させる扱いも行っていました(今別町広報紙より)が、北海道新幹線 奥津軽いまべつ駅の工事に伴い2015年8月10日以降当面の間、全列車が通過するようになりました。
旅客駅としての廃止とは異なりますが、現在は指定席券売機えきねっとなどでは津軽今別を発着とする乗車券が購入できなくなっています。

この乗車券の着駅である中小国は海峡線と津軽線の分岐駅(※)ですが、中小国は津軽線の列車のみが停車し海峡線は全列車が通過します。従って実際の海峡線と津軽線の乗換駅は中小国の隣の蟹田となっています。
※実際の分岐点は中小国から2.3km津軽今別寄りにある新中小国信号場です。

中小国・蟹田間は東日本旅客鉄道株式会社 旅客営業取扱基準規程(以下、基準規程)第151条で規定される分岐駅通過列車の特例区間ではありますが、特例の適用は「左方の駅を通過する急行列車へ同駅から分岐する線区から乗り継ぐ」場合(逆も可)に限られています。
即ち津軽今別→中小国(経由:海峡)の乗車券で「津軽今別→中小国(特急通過)→蟹田(折返し)→中小国」と乗車するのは不可、津軽今別→大平(経由:海峡・津軽)の乗車券で「津軽今別→中小国(特急通過)→蟹田(折返し)→中小国→大平」は可ということになります。


実際、指定席券売機の乗車券メニューにおいても、津軽今別→中小国(蟹田折返し)よりも遠くの津軽今別→大平(蟹田折返し)の方が安価となる運賃を回答します。

これは蟹田折返しの津軽今別→中小国は分岐駅通過の特例条件を満たさないため片道乗車券として発売できず蟹田打ち切りの連続乗車券、蟹田折返しの津軽今別→大平は特例適用で片道乗車券として発売されるためです。

実際に発売された乗車券です。
津軽今別蟹田と、蟹田→中小国の連続乗車券は連続1が340円、連続2が190円の合計530円です。

津軽今別→大平の片道乗車券は津軽今別(海峡線)中小国(津軽線)大平の経路で運賃340円です。この乗車券で中小国・蟹田間の区間外折返し乗車が認められています。


なお、「左方の駅(中小国)を通過する急行列車へ同駅(中小国)から分岐する線区(津軽線)から乗り継ぐ」(今回は逆のケース、逆も可)ことが分岐駅通過の特例適用条件ですので、この乗車券で津軽今別→中小国(特急通過)→蟹田(折返し)→中小国と乗車し、中小国で前途放棄扱いとすることも認められない(分岐する線区から乗り継ぐ、の逆のケースを満たさない)と思われます。

つまり、津軽今別→中小国は直通する列車が存在しないため直接向かうことは不可能、蟹田折返しとする場合も分岐駅通過の特例を満たさないので折返し乗車も不可となり、必ず他の乗車券(特別企画乗車券含む)との併用、または区間変更等が必要となります。この乗車券単独ではどうやっても券面記載事項通りに使用できません。
2015年9月12日追記:コメントで頂いた情報によると、中小国発着の乗車券でも中小国・蟹田間の分岐駅通過の特例の適用を認めているとのことでした。木古内→中小国の乗車券で、木古内→中小国(通過)→蟹田(折返し)→中小国の乗車が可能のようです。



同じような事例として以下の例があります。
東雲(とううん)から上白滝への片道乗車券です。石北本線営業キロ38.5km(運賃計算キロ42.4km)に対する運賃840円の乗車券です。
片道100km以下ですので1日間有効、下車前途無効で発売されます。


石北本線 東雲・上白滝間の時刻表(2015/3/14改正)を示します。東雲・上白滝とも普通列車のみ停車ですので特急は省略します。

  4621D 4521D 4527D 4529D 4531D
東雲   08:09 14:50 17:45 19:23
上川 06:16 08:15 14:57 17:51 19:30
上白滝 07:04 ==== ==== ==== ====

上白滝に停車する下り列車は1日1本、朝の4621D列車のみです。東雲の始発列車4521Dが上川に到着するのは、4621D列車の発車後ですので翌日の4621Dまで待たねばなりません。券面記載事項通りの有効日数1日では、発駅から着駅へ片道乗車で到達する方法がありません(※)。
※もっとも、この場合は規則第155条の規定による継続乗車となり、期限切れの乗車券であっても券面着駅までは有効となる救済措置があります。東雲→上白滝という利用自体まず考えられないとは思いますが。

なお東雲(14:50)→上川(14:57/15:49)→白滝(16:30/17:02)→上白滝(17:07)と白滝まで行き、折り返し上り列車を利用することで当日中に到着することは可能です。ただし東雲→上白滝の乗車券で上白滝・白滝間折返し乗車はできませんので、東雲→白滝+白滝→上白滝の連続乗車券または2枚の片道乗車券が必要です。

石北本線においては、JR北海道が2016年3月のダイヤ改正に合わせて上白滝、旧白滝、下白滝、金華の4駅を廃止する方針と報じられています。
かつて上川〜丸瀬布(まるせっぷ)間には天幕(2001年廃止)、中越(2001年廃止、現:中越信号場)、上越(1975年廃止、現:上越信号場)、奥白滝(2001年廃止、現:奥白滝信号場)、上白滝、白滝、旧白滝、下白滝と8駅ありました。現在は4駅、予定通り廃止されると2016年3月からは白滝1駅のみとなってしまいます。

【旅客営業規則】
(乗車券類の使用条件)
第147条 乗車券類は、その券面表示事項に従つて1回に限り使用することができる。この場合、乗車人員が記載されていない乗車券類は、1券片をもつて1人に限るものとする。ただし、定期乗車券については、その使用回数を制限しない。
2 第208条後段の規定により、別表第2号の2に掲げる行程表又は席番表を添付して発売した団体乗車券(第223条の規定により団体乗車券として発売した特殊指定共通券を含む。)は、当該行程表又は席番表とともに使用する場合に限つて相当の団体乗車券とする。
3 指定券であつて、当該指定券に記載する内容の一部に代えるため、別表第3号に掲げる指定席券を交付したものについては、当該指定席券とともに使用する場合に限つて相当の指定券とする。
4 原乗車券又は原急行券とともに使用することを条件とした乗車変更用の乗車券類は、原乗車券又は原急行券とともに使用する場合に限つて相当の乗車券類とする。
5 同一旅客は、同一区間に対して有効な2枚以上の同種の乗車券類を所持する場合は、当該乗車については、その1枚のみを使用することができる。同一旅客が、同一区間に対し有効な2枚以上の指定券を所持する場合についてまた同じ。
6 乗車券類は、乗車以外の目的で乗降場に入出する場合には、使用することができない。

(継続乗車)
第155条 入場後に有効期間を経過した当該使用乗車券は、途中下車をしないでそのまま旅行を継続する場合に限つて、その券面に表示された着駅までは、第147条の規定にかかわらず、これを使用することができる。この場合、接続駅において設備又は時間の関係上、旅客を一時出場させて、列車に接続のため待合せをさせるときは、指定した列車に乗り継ぐ場合に限り、継続乗車しているものとみなす。

(乗車券類の表示事項)
第183条 乗車券類の表面には、次の各号に掲げる事項を表示する。
(1)旅客運賃・料金額
(2)有効区間
(3)有効期間
(4)発売日付
(5)発売箇所名
2 次の各号に掲げる乗車券類にあつては、前項に規定する表示事項の一部を省略することがある。
(1)臨時に発売する乗車券類
(2)その他特殊の乗車券類

【旅客営業取扱基準規程】
(分岐駅通過列車に対する区間外乗車の取扱いの特例)
第151条 次に掲げる区間の左方の駅を通過する急行列車へ同駅から分岐する線区から乗り継ぐ(急行列車から普通列車への乗継ぎを含む。)ため、同区間を乗車する旅客(定期乗車券を所持する旅客を除く。)に対しては、当該区間内において途中下車をしない限り、別に旅客運賃を収受しないで、当該区間について乗車券面の区間外乗車の取扱いをすることができる。
(中略)
 中小国・蟹田
(以下略)