近いほうが高い乗車券

赤羽から東京へ向かい、東京で折り返し新幹線に乗り換えて大宮までの乗車券を指定席券売機で購入すると770円です。


一方で大宮までは同じ経路とし、着駅を大宮の一つ隣である川越線日進までとすると410円と表示されます。
遠いほうが300円以上安くなるという直感的には理解し難い現象が発生します。


乗車経路は前者が赤羽(東北本線)東京(東北新幹線)大宮、後者は赤羽(東北本線)東京(東北新幹線)大宮(川越線)日進です。
なぜこのような運賃差が発生するか、発売される乗車券を見ると理由が見えてきます。


赤羽から大宮への乗車券は連続乗車券で発売されます。


折り返し乗車となるため、東京で運賃計算を打ち切って連続乗車券として発売されます。
連続1は赤羽(東北本線)東京で13.2km 220円、連続2は東京(東北新幹線)大宮で30.3km 550円、合計770円です。



一方で赤羽から日進への乗車券は片道乗車券で発売されます。


経由欄は「東京・新幹線・大宮・川越線」とありますが、この乗車券の運賃計算は赤羽(東北本線)大宮(川越線)日進の経路で行っています。このような発売が出来る理由は後述します。
営業キロ20.8km、運賃は410円です。

赤羽から大宮までは連続乗車券で2枚分の運賃がかかるのに対し、大宮より遠い日進へは片道乗車券1枚で発売されるため、このような価格差が発生することになります。
もっとも、赤羽〜東京〜大宮〜日進は明らかに経路が重複していますので、この区間を片道乗車券で発売できるとは考えられないのが普通です。みどりの窓口で赤羽→日進(東京折り返し・新幹線利用)の乗車券購入を申し出ると、赤羽→大宮と同じように東京打ち切りの連続乗車券が発売されるかもしれません。なお連続乗車券として発売しても、規定に反した発売とはなりません。


ではなぜ赤羽→日進は東京で折り返し乗車となるのに片道乗車券で発売できるのかというと、乗車券の特例として「規則70条区間と特定区間(※1)以外との相互間で、列車(※2)に乗り継ぐために70条区間を複乗・区間外乗車すること」を認めているためです。
※1 東京〜大船・高尾・大宮間など。電車特定区間に近い範囲だが、同一ではない。
※2 東京・上野・新宿発着の大都市近郊区間内で一部の駅を通過する列車。東北新幹線は大都市近郊区間の列車ではないが、含まれるようだ。

この規定は旅客営業規則・旅客営業取扱基準規程のどちらにも存在せず通達レベルの存在のようですが、マルスシステムはこの特例を認識した運賃計算を行っています。
すなわち大宮は特定区間内であるため特例は適用されず、原則どおり東京打ち切りの連続乗車券を発売、日進は特定区間外であるため特例を適用し赤羽(東北本線)大宮(川越線)日進の乗車券で赤羽・東京間の複乗・区間外乗車が可能(※)、という理屈です。
※ただし、これは区間外乗車すなわち効力に関する特例です。効力は発売された乗車券類に対して発生するものであり、発売時に効力をあらかじめ適用させるのは……と思いますが、効力を見越しで適用させるケースは他にも多々あります。


東京から100kmを超えた駅は「[山]東京山手線内」が、200kmを超えた駅は「[区]東京都区内」がそれぞれ適用された乗車券が発売されます。これらの乗車券については東日本旅客鉄道株式会社 旅客営業取扱基準規程第150条第1項の規定により同区間内で列車に乗り継ぐための折り返し乗車が認められています。
※例えば特急あずさ号が新宿に到着する前に「東京都区内の乗車券で中野・荻窪方面お戻りのお客様は……」などと折り返し乗車を案内しています。
今回の特例は、これらが適用されない区間(ただし、極端に近い区間は除外)に対しても不利とならないよう救済することを目的とした規定と考えられます。

ところで上記は民営化当初に出された通達のようなのですが、列車の定義が「東京・上野・新宿発着」に限定される等現在の運行体系に合っていないように思われます。マルスシステムの運賃計算上は今も有効なようですが、現行の規定はどのようになっているのでしょうか。

(特定都区市内等における折返し乗車等の特例)
第150条 特定都区市内発着又は東京山手線内発着となる普通乗車券を所持する旅客が列車に乗り継ぐため、同区間内の一部が復乗となる場合は、別に旅客運賃を収受しないで、当該区間について乗車の取扱いをすることができる。
(以下略)