東京急行電鉄株式会社 旅客営業規則

東京急行電鉄の公式サイトに、東京急行電鉄 旅客営業規則(以下、規則)が公開されるようになりました。

いつから公開されるようになったのかは不明ですが、公開されているのが平成26年4月1日現在のものなので、4月1日から公開されるようになったのでしょうか。

公開された規則のうち、規則70条を見てみます。
JRの旅客営業規則第70条と同じように運賃計算の特例区間を定めています。環状線を形成する箇所は最短経路で運賃計算をするというものです。

(旅客運賃計算の特例)
第70条 第67条の規定にかかわらず、旅客が、次に掲げる図の太線区間内にある駅発または着もしくは太線区間を通過する場合の普通旅客運賃または回数旅客運賃は、太線区間内の最も短いキロ程によって計算する。この場合、太線内は経路の指定を行わない。
ただし、太線区間内にあるいずれかの経路を1周した場合は、実際に乗車した経路のキロ程によって計算する。1周を超える場合は1周となる駅の前後のキロ程を打ち切って計算する。

(図は省略。渋谷・二子玉川・自由が丘・田園調布・多摩川・蒲田・旗の台・大岡山に囲まれる範囲)

「ただし」以下の部分に注目です。規則70条に規定される区間(以下、70条区間)も1周すると実際に乗車した経路通りに計算するとあります。
過去の規則では上記但し書き以下の記述は無かったように記憶しています。

規則70条区間内で1周すると実乗車経路で運賃計算ということは、例えば以下の経路を考えてみます。大岡山〜大岡山で70条区間を1周しています。
中央林間(田園都市線)渋谷(東横線)自由が丘(大井町線)旗の台(池上線)蒲田(東急多摩川線)多摩川(東横線)田園調布(目黒線)大岡山、以上営業キロ58.0km

しかしながら、規則78条には営業キロ56kmまでの運賃しか定められておらず、上記経路は運賃計算が出来ないことになります。

(普通旅客運賃)
第78条 鉄道(こどもの国線を除く。)の大人片道普通旅客運賃は、旅客の乗車する着区間のキロ程により、次によって区分した額とする。

1キロメートルから	3キロメートルまで	130円
4 〃 7 〃 160円

(中略)

16 〃 20 〃 250円
21 〃 25 〃 270円
26 〃 30 〃 300円

(中略)

41 〃 45 〃 410円
46 〃 50 〃 440円
51 〃 56 〃 470円


これは規則の漏れというわけではなく、規則70条2項に以下のように定められているため営業キロ58kmの運賃を計算することがないからと思われます。

2 前項の規定による最も短いキロ程により計算した普通旅客運賃または回数旅客運賃が他経路のキロ程により計算した普通旅客運賃または回数旅客運賃よりも高額となる区間については最も低廉となる普通旅客運賃または回数旅客運賃とする。この場合においても太線内は経路の指定を行わない。

中央林間(田園都市線)渋谷(東横線)自由が丘(大井町線)旗の台(池上線)蒲田(東急多摩川線)多摩川(東横線)田園調布(目黒線)大岡山の経路に当てはめて考えてみます。なお、以下では「または回数旅客運賃」の部分は省略します。

(1)前項の規定による最も短いキロ程により計算した普通旅客運賃:中央林間→大岡山(上記経路)、営業キロ58.0kmに該当する運賃(規則に定めなし)
(2)他経路のキロ程により計算した普通旅客運賃:中央林間→大岡山(田園都市線大井町線経由、最短経路)、営業キロ27.7kmに該当する運賃=300円

(1)が(2)よりも高額になる区間については、最も低廉となる普通旅客運賃:中央林間→大岡山の遠回りの経路の運賃は、中央林間→大岡山の最短経路の運賃300円
東急線営業キロ58.0kmの運賃は「未定義」ですのでそもそも比較が出来ませんが、ひとまずは最短の営業キロ=最も低廉となる運賃として考えます。

1周すると実経路で計算と定めつつも、他経路(1周しない経路)の方が安ければその運賃でしか発売しないと定めていますので、中央林間→大岡山営業キロ58.0kmの乗車券は残念ながら発売できないことになります。

では「太線区間内にあるいずれかの経路を1周した場合は、実際に乗車した経路のキロ程によって計算する」はどのようなケースをかというと、おそらく70条区間内相互発着で1周した場合の運賃計算を想定しているものと思われます。



渋谷から渋谷への片道乗車券です。東京急行電鉄の特別補充券により発売されました。

経路は渋谷(東横線)自由が丘(大井町線)二子玉川(田園都市線)渋谷営業キロ20.5kmで運賃は270円です。
かつては1周260円でしたが、2014年4月1日に消費税増税により運賃が改定され270円となりました。
70条区間内は経路の指定を行わないと定めていますので、逆向きの経路(田園都市線大井町線東横線経由)での乗車も可能です。



「渋谷→東急線270円区間」の片道乗車券です。

渋谷から渋谷へは特別補充券の他、1周運賃に相当する渋谷から270円の金額式の乗車券でも利用できます。
渋谷駅では自動改札機で出場できませんので、改札窓口での取扱いとなります。


渋谷→渋谷で1周する経路は上記の通り20.5kmで270円ですが、他経路でこれより運賃が低廉となる経路は存在しません。この場合は規則70条の規定通り、実乗車経路で運賃計算をすることになります。



自由が丘から自由が丘への片道乗車券です。
経由欄は「田園調布・大岡山」とあります。自由が丘(東横線)田園調布(目黒線)大岡山(大井町線)自由が丘の経路で、営業キロ4.9km、運賃は160円です。



渋谷→渋谷のケースと同様に、「自由が丘→東急線160円区間」の金額式乗車券での利用も可能です。



ところで自由が丘→自由が丘は、最短経路となる自由が丘(東横線)田園調布(目黒線)大岡山(大井町線)自由が丘(奥沢経由と呼称)の他に自由が丘(東横線)渋谷(田園都市線)二子玉川(大井町線)自由が丘(渋谷経由と呼称)、自由が丘(東横線)田園調布(東急多摩川線)蒲田(池上線)旗の台(大井町線)自由が丘(蒲田経由と呼称)という経路も考えられます。
渋谷経由の運賃は20.5kmで270円、蒲田経由の運賃は18.5kmで250円となりますが、この場合も規則70条2項の規定に従い、自由が丘→自由が丘は渋谷経由の運賃(270円)、蒲田経由の運賃(250円)、奥沢経由の運賃(160円)を比較し、最も低廉となる奥沢経由160円のものしか発売できないことになります。

規則70条2項は「この場合においても太線内は経路の指定を行わない」と定めていますので、自由が丘→自由が丘の160円乗車券、自由が丘→東急線160円区間の乗車券で自由が丘→自由が丘を渋谷経由、蒲田経由で利用することも可能であると思われます。


東京急行電鉄の旅客営業規則がこのような体系となっているのは、おそらく2駅間に複数の運賃が存在して煩雑となる事態を避けたかったものと推測します。もっとも、1周乗車など趣味的な利用でしか考えられない利用方法ではありますが。

なお、東急線最長片道区間である中央林間→横浜(田園都市線大井町線東横線経由)が43.4km(410円)ですので、東急線440円以上(46km以上)の片道運賃は存在しない事になり、規則で定められてはいるものの適用されることはない状態となっています。
東横線田園都市線の渋谷が改札外乗り換えであった時代は、渋谷〜自由が丘〜二子玉川間は規則70条に含まれず実乗車経路で運賃計算をしていました。中央林間→横浜(田園都市線東横線経由)は営業キロ55.7kmですので、その当時の営業キロと運賃が規則・運賃改定後の今もなお残っているのでしょう。