旅客営業規則第78条

4月7日から1日間有効の東京から新宿への片道乗車券です。

経由欄は「中央東」とのみ記載がありますが、線路名称上の経路は以下のとおりです。
東京(東北本線)神田(中央本線)代々木(山手線)新宿

営業キロ10.3km、東京山手線内相互発着で運賃は200円です。ICカード利用であれば運賃194円ですので、この区間で乗車券を買って利用するような需要はあまりないかもしれません。消費税増税前は190円でしたが、現行の運賃は200円です。
特に変わったところは無いように見える乗車券ですが、一部の掲示板やブログではこの区間の運賃について規則上根拠が無いと話題になっていました。




消費税率改定前の平成26年3月15日現在の旅客営業規則においては、東京山手線内・大阪環状線内、電車特定区間の運賃計算方法を以下のように定めていました。

(営業キロ擬制キロ又は運賃計算キロの端数計算方)
第8条 営業キロ又は第14条の2に規定する擬制キロ若しくは運賃計算キロを用いて運賃・料金を計算する場合の1キロメートル未満の端数は、1キロメートルに切り上げる。


(幹線内相互発着の大人片道普通旅客運賃)
第77条 幹線内相互発着となる場合の大人片道普通旅客運賃は、次の各号により計算した額を合計した額とする。
ただし、北海道旅客鉄道会社線四国旅客鉄道会社線又は九州旅客鉄道会社線内発又は着若しくは通過となる場合を除く。

(1)発着区間営業キロを次の営業キロに従つて区分し、これに各その営業キロに対する賃率を乗じた額を合計した額。この場合、発着区間営業キロが100キロメートル以下のときは、10円未満のは数を10円単位に切り上げた額とし、100キロメートルを超えるときは、50円未満のは数を切り捨てて、又は50円以上のは数を切り上げてそれぞれ100円単位とした額とする。
300キロメートル以下の営業キロ(第1地帯)/1キロメートルにつき16円20銭
300キロメートルを超え、600キロメートル以下の営業キロ(第2地帯)/1キロメートルにつき12円85銭
600キロメートルを超える営業キロ(第3地帯)/1キロメートルにつき7円05銭

(2)前号の規定により計算した額に100分の5を乗じ10円未満のは数を円位において四捨五入して10円単位とした額(以下この方法を「四捨五入」という。)

2 前項の規定によるほか、幹線内相互発着の大人片道普通旅客運賃は、次の各号に定める営業キロのものを適用する。
(1)11キロメートルから50キロメートルまで/11キロメートルから5キロメートルごとに区分し、11キロメートルから15キロメートルまでは13キロメートルとし、16キロメートル以上は、これに1区分を増すごとに5キロメートルを加えた営業キロとする。
(以下略)


(電車特定区間内等の大人片道普通旅客運賃)
第78条 次の各号に掲げる区間内相互発着の場合の大人片道普通旅客運賃は、第77条に規定する賃率にかかわらず、当該各号に定める賃率によつて、同条の規定を適用して計算した額とする。

(1)第86条第1号に掲げる図中の太線区間(以下「東京山手線内」という。)及び同条第5号に掲げる図中の太線区間(以下「大阪環状線内」という。)の駅相互発着のときの賃率は、次のとおりとする。
300キロメートル以下の営業キロ(第1地帯)/1キロメートルにつき13円25銭

(2)東京附近及び大阪附近における電車特定区間内相互発着(前号に規定する東京山手線内及び大阪環状線内相互発着となるときを除く。)のときの賃率は、次のとおりとする。
300キロメートル以下の営業キロ(第1地帯)/1キロメートルにつき15円30銭
300キロメートルを超え、600キロメートル以下の営業キロ(第2地帯)/1キロメートルにつき12円15銭
(以下略)

これに従って東京→新宿(10.3km、東京山手線内)の運賃を計算してみます。
規則8条により営業キロ10.3kmは11kmに切り上げられます。
規則78条1号で1kmあたり13.25円と定められる以外は規則77条の定めによります。
規則77条2項1号により、11kmから15kmの範囲では中央の13kmとして運賃を計算します。
規則77条1項1号によりキロ単価13.25円と13kmをかけた172.25円に対し、100km以下ですので10円未満を10円単位に切り上げて180円です。
規則77条1項2号により180円に消費税5%を加えて189円とし、10円未満を四捨五入した190円が消費税増税前の東京→新宿間の運賃でした。





平成26年4月1日現在の旅客営業規則の規定は以下のとおりとなっています。平成26年3月15日現在のものと異なっている箇所を赤字で示します。
規則8条は変更ありませんので省略します。

(幹線内相互発着の大人片道普通旅客運賃)
第77条 幹線内相互発着となる場合の大人片道普通旅客運賃は、次の各号により計算した額を合計した額とする。
ただし、北海道旅客鉄道会社線四国旅客鉄道会社線又は九州旅客鉄道会社線内発又は着若しくは通過となる場合を除く。

(1)発着区間営業キロを次の営業キロに従つて区分し、これに各その営業キロに対する賃率を乗じた額を合計した額。この場合、発着区間営業キロが100キロメートル以下のときは、10円未満のは数を10円単位に切り上げた額とし、100キロメートルを超えるときは、50円未満のは数を切り捨てて、又は50円以上のは数を切り上げてそれぞれ100円単位とした額とする。
300キロメートル以下の営業キロ(第1地帯)/1キロメートルにつき16円20銭
300キロメートルを超え、600キロメートル以下の営業キロ(第2地帯)/1キロメートルにつき12円85銭
600キロメートルを超える営業キロ(第3地帯)/1キロメートルにつき7円05銭

(2)前号の規定により計算した額に100分の8を乗じ10円未満のは数を円位において四捨五入して10円単位とした額(以下この方法を「四捨五入」という。)

2 前項の規定によるほか、幹線内相互発着の大人片道普通旅客運賃は、次の各号に定める営業キロのものを適用する。
(1)11キロメートルから50キロメートルまで/11キロメートルから5キロメートルごとに区分し、11キロメートルから15キロメートルまでは13キロメートルとし、16キロメートル以上は、これに1区分を増すごとに5キロメートルを加えた営業キロとする。
(以下略)


(電車特定区間内等の大人片道普通旅客運賃)
第78条 次の各号に掲げる区間内相互発着の場合の大人片道普通旅客運賃は、第77条規定にかかわらず、当該各号定めによつて計算した額とする。

(1)第86条第1号に掲げる図中の太線区間(以下「東京山手線内」という。)及び同条第5号に掲げる図中の太線区間(以下「大阪環状線内」という。)の駅相互発着の場合
イ 東京山手線内相互発着の場合
次に定める賃率によって第77条第1項第1号の規定を適用して計算した額と、その額に100分の8を乗じ10円未満のは数を円位において切り上げた額とを合算した額

300キロメートル以下の営業キロ(第1地帯)/1キロメートルにつき13円25銭
ロ 大阪環状線内相互発着の場合
前イに定める賃率によって、第77条の規定を適用して計算した額

(2)東京附近及び大阪附近における電車特定区間内相互発着(前号に規定する東京山手線内及び大阪環状線内相互発着となるときを除く。)の場合
イ 東京附近における電車特定区間内相互発着の場合
次に定める賃率によって第77条第1項第1号の規定を適用して計算した額と、その額に100分の8を乗じ10円未満のは数を円位において切り上げた額とを合算した額

300キロメートル以下の営業キロ(第1地帯)/1キロメートルにつき 15円30銭
300キロメートルを超え、600キロメートル以下の営業キロ(第2地帯)/1キロメートルにつき 12円15銭
ロ 大阪附近における電車特定区間内相互発着の場合
前イに定める賃率によって、第77条の規定を適用して計算した額

(以下略)

規則77条は消費税率が5%から8%に変更されたことのみの修正ですが、規則78条は大きく変更されています。
もともと規則78条は「賃率」、すなわち1kmあたりの単価のみを対象としていましたが、東京山手線内・東京附近電車特定区間内においては運賃を「ICカード≦紙の乗車券」とするため、消費税加算後に1円単位で切り上げと消費税加算の計算方法まで扱うように変更されました。
この時に規則78条を「第77条の規定にかかわらず」と規則77条を全体では参照せず、個々の条文で必要に応じ参照する方法に改められました。
しかしながら規則78条1項1号において「次に定める賃率によって第77条第1項第1号の規定を適用して計算した額」と規則77条1項1号(=キロ単価と営業キロをかけたあとの処理)のみを適用し、規則77条2項(=運賃は中央の営業キロで計算)を適用しないような修正方法を採ってしまっています。

この規則に従い、消費税増税後の東京→新宿10.3km、東京山手線内相互発着の運賃を計算してみます。
規則8条により営業キロ10.3kmは11kmに切り上げられます。
規則78条1項1号で1kmあたり13.25円と定められており、営業キロ11kmとかけて145.75円です。中央の営業キロ13kmでは計算しません。
規則77条1項1号により145.75円に対し、100km以下ですので10円未満を10円単位に切り上げて150円です。
規則78条1項2号により150円に消費税8%を加えて162円とし、10円未満を切り上げた170円が消費税増税後の東京→新宿間の運賃となります。
これは実際の運賃200円と一致していません。これは運賃計算を1km単位ではなく、中央の営業キロで計算するという条文の参照漏れが原因です。


なお東京山手線内に限らず、同じように定めている東京附近電車特定区間内においても同様です。
例えば、東京附近電車特定区間内の営業キロ11km(例:立川→東小金井、10.1km)を上記に従い計算してみると190円となり、現行運賃220円と一致しなくなります。
大阪環状線内・大阪附近電車特定区間内は規則78条において「前イに定める賃率によって、第77条の規定を適用して計算した額」と賃率のみを対象としており、上記のような差異は生じません。



このように、東京山手線内・東京附近電車特定区間内は旅客営業規則上1km単位で運賃計算をするように解釈できる状態となっていましたが、いつの間にか規則78条は改定されていました。


現在の旅客営業規則第78条です。

(電車特定区間内等の大人片道普通旅客運賃)
第78条 次の各号に掲げる区間内相互発着の場合の大人片道普通旅客運賃は、第77条の規定にかかわらず、当該各号の定めによつて計算した額とする。

(1)第86条第1号に掲げる図中の太線区間(以下「東京山手線内」という。)及び同条第5号に掲げる図中の太線区間(以下「大阪環状線内」という。)の駅相互発着の場合
イ 東京山手線内相互発着の場合
次に定める賃率によつて第77条第1項第1号及び同条第2項の規定を適用して計算した額と、その額に100分の8を乗じ10円未満のは数を円位において切り上げた額とを合算した額
300キロメートル以下の営業キロ(第1地帯)/1キロメートルにつき13円25銭
ロ 大阪環状線内相互発着の場合
前イに定める賃率によつて、第77条の規定を適用して計算した額

(2)東京附近及び大阪附近における電車特定区間内相互発着(前号に規定する東京山手線内及び大阪環状線内相互発着となるときを除く。)の場合
イ 東京附近における電車特定区間内相互発着の場合
次に定める賃率によつて第77条第1項第1号及び同条第2項の規定を適用して計算した額と、その額に100分の8を乗じ10円未満のは数を円位において切り上げた額とを合算した額
300キロメートル以下の営業キロ(第1地帯)/1キロメートルにつき15円30銭
300キロメートルを超え、600キロメートル以下の営業キロ(第2地帯)/1キロメートルにつき12円15銭
ロ 大阪附近における電車特定区間内相互発着の場合
前イに定める賃率によつて、第77条の規定を適用して計算した額
(以下略)

東京山手線内・東京附近電車特定区間内において「第77条第1項第1号及び同条第2項の規定を適用して計算した額」に改められています。
現行の規則に従って、東京→新宿10.3km、東京山手線内相互発着の運賃を計算してみます。

規則8条により営業キロ10.3kmは11kmに切り上げられます。
規則77条2項により、11kmから15kmは中央の13kmで運賃を計算します。
規則78条1項1号で1kmあたり13.25円と定められており、営業キロ13kmとかけて172.25円です。
規則77条1項1号により172.25円に対し、100km以下ですので10円未満を10円単位に切り上げて180円です。
規則78条1項2号により180円に消費税8%を加えて194.4円、10円未満を切り上げて200円です。

これは最初に示した乗車券の発売額と一致しています。


JR東日本の旅客営業規則は「平成26年4月1日現在」となっていますが、規則78条はいつごろ改訂されたのでしょうか。
また、JR北海道JR東海(PDF)・JR西日本(PDF)・JR九州(PDF)が各社ウェブで公開している規則は、上記改訂が反映されていません。JR四国はウェブで旅客営業規則を公開していないため不明です。

※2014年4月15日追記:4月15日に旅客営業規則の改正が公告されました。4月1日に遡って適用されるようです。


【おまけ】
1km単位で計算するような解釈ができる旅客営業規則は修正されましたが、分割したほうが安い(例:立川→新宿470円・IC464円、立川→吉祥寺+吉祥寺→新宿440円・IC432円)という運賃体系の解消には1km単位の運賃制度の導入が考えられます。値上げ・据え置き・値下げとなる区間がそれぞれ発生しますので、導入は容易ではないと思われますが。

【おまけ2】
今回のような問題が発生したそもそもの原因は、賃率自体には手を加えていないにもかかわらず、規則78条に消費税加算後の端数処理を持ち込んでしまったのが原因と考えます。例えば以下に示すように消費税加算後に東京附近電車特定区間内は切り上げ、他は切り捨てという記述を規則77条1項2号にまとめてしまえば規則78条を改定する必要はなく、シンプルな体系にできたのでは……と思います。


(幹線内相互発着の大人片道普通旅客運賃)
第77条 幹線内相互発着となる場合の大人片道普通旅客運賃は、次の各号により計算した額を合計した額とする。
ただし、北海道旅客鉄道会社線四国旅客鉄道会社線又は九州旅客鉄道会社線内発又は着若しくは通過となる場合を除く。
(1)略
(2)前号の規定により計算した額に100分の8を乗じ10円未満のは数を円位において四捨五入して10円単位とした額(以下この方法を「四捨五入」という。)。ただし、第78条に規定する東京附近における電車特定区間内相互発着の場合は、前号の規定により計算した額に100分の8を乗じ10円未満のは数を円位において切り上げた額。
2 略

(電車特定区間内等の大人片道普通旅客運賃) 変更なし
第78条 次の各号に掲げる区間内相互発着の場合の大人片道普通旅客運賃は、第77条に規定する賃率にかかわらず、当該各号に定める賃率によつて、同条の規定を適用して計算した額とする。
(以下略)